madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

二千円札

今年の3月、飲み会の幹事をすることになった。

この日、4年ぶりに友だちが日本に帰ってきたので、彼とその友だちを集めて飲み会をすることになったのだ。

この時、その彼の友だちの友だちも、カナダから日本に観光に来ていたので、その人たちも参加することになった。

そして、その彼の友だちの友だちは、カナダの会社の同僚を6人一緒に連れてきていたので、その人たちも参加することになった。

計15人の飲み会。

知っている人8人、知らない人7人。

正直、大人数の飲み会は好きではないし、まあこの飲み会も例外に漏れず楽しくはなかったが、久々に日本に帰って来た友だちのために、と思って、仕事だと思って割り切ることにした。


2時間の飲み放題の時間が終わったので、お開きになった。

そして、会計である。

幹事として最後の仕事だ。

一人3500円での割り勘。

自分の知っている人たちからまずお金をもらい、それから、カナダから来ている知らない人たちからもらうことにした。

「ヘロー」と、一番端にいた女性におそるおそる話しかけた。

「3500円、もらっていい?」と僕が丁寧に聞くと、「もちろん、もちろん」と笑顔で応えてくれた。

すると、その女性は、「みんなー、1人3500円だって!」と、僕の知らない人グループに声をかけてくれた。

声をかけられた人たちは、みんなせっせと財布からお金を出そうとしてくれている。

ありがてえ。

カナダ人、いい人たちだな。

そして、その女性は僕に「ハイ」とお札を2枚出してくれた。

僕は目を見はった

なんと、二千円札二枚だったのだ。

「うおおお!」と声を出してしまった。

その驚きように、女性は驚き、「え? どうしたの?」と聞いてきた。

「すげえ、二千円札なんて久しぶりに見た!」

「え? そうなの? これ、使われていないの?」

「いや、使える、使える。ただ、超珍しいんだよ」

「あ、そうなんだ」

僕は、不思議そうな表情をしている彼女にお釣りの500円を渡した。

それからすぐに、次の人からお札を差し出された。

すると、このカナダ人も2千円札2枚を繰り出してきた。

「うお!」とつい声に出して驚く。

ここ15年以上、2千円札を見るなんて機会はなかった。

なのに、自分の手に2千円札が4枚もある。

そして、その四枚は、最終的に10枚になった。

どういうこった。

一体、何が起きている。

カナダで一体何が起きているのだ。

ここで、カナダ人の一人に、「なんでそんなに驚くの?」と逆に驚かれた。

「2000年に発行されて、でも不人気だったからすぐやめたんだよ。それ以来、全然流通していないし」

「へえ、そうなんだ。カナダで両替したら、普通にこれをもらっただけなんだけどね」

「え、そうなの?」

「そういえば、ほかの店で2千円札を出しても、確かに店員はちょっと驚いていたかも」

「そりゃあ、驚くよ」

僕はクレジットカードで支払いを済ませ、札束を財布に詰め込み、嬉々揚々と家に帰って、2千円札をじっくり眺めた。

うーん、素晴らしい。


そして、困ってしまった。

正直、使いたくない。

もはやお目にかかれないであろう、2千円札。

紙幣は使うものなのに、使いたくない。

ひとまず、一枚だけ財布に入れて、事あるごとに、友人に見せびらかせ始めた。

が、それもすぐに飽きた。

また、残りの9枚は引き出しの中に眠ったままである。

約2万円を引き出しの中に忍ばせておき、しかも使う気がないなど、無駄の賜物である。

社会問題であるタンス預金に大貢献である。


そんな感じで、半年以上が経った。

財布を開いてお札を出そうとするたび、2千円札が顔を覗かしながら「俺の出番はまだ?」と言いたげにしていた。

だが、僕は、「いや、まだだ。我慢をしろ」と言うしかなかった。

先発は、あくまで、千円札、5千円札、1万円札である。

2千円札は、チームで4人目のゴールキーパーみたいなものだ。

1人目から3人目にアクシデントでもない限り、出番はやってこない。

そんな苦しい状況の中、2千円札は財布の中でじっと出番を待っていた。

 


先日、僕は、赤坂アークヒルズの音楽横丁というイベントに行ってきた。

特に、そのイベントに行きたかった訳ではない。

仕事帰りに、よくアークヒルズで夕飯を食べていたので、この日も夕飯を食べるつもりで行っていた。

ただ、この日はいつもと様子が違った。

レストラン街の通路に立ち飲み用のテーブルが設置されてあったのだ。

どうやら、千円でビールとご飯が食べられるようである。

そういう風に飲み食いしながら、音楽を楽しむイベントなのかな?

音楽がいずれ流れるのかな?

せっかくなので、レストランじゃなくてここで食べることにした。

早速、千円チケットをイベントカウンターで購入し、天ぷら屋で天丼とビールを買い、それを持って立ち飲みのテーブルについた。

すると、ギターを持った人が辺りをふらついていた。

髪をバッチリ決め、丸いメガネをして、ギターをちょっとだけシャンシャン言わせている。

これは・・・。

これは、もしかして・・・。

「流し」ではないのか?

なんか、ゲームで見たことがある。

実況パワフルプロ野球」かなんかのゲームで、「流し」をしてアルバイトをする場面があった。

おお! 生の「流し」ではないか! ゲームじゃない! 本物だ!

だから音楽横丁なのか!

ここで僕は、テーブルの上に白い紙が置かれていたのに気付いた。

「パリ中山です」と自己紹介が書いてあって、「ここに書いてある曲、どれでもギターと一緒に歌います」とある。

おお! すげえ!

100曲もある!

こんなに歌えるんだ!

さすが、生の「流し」!

こういうイベントに呼ばれるプロの流しなんて、そうそう会うことなんてない。

僕はパリ中山さんに手を振り、「お願いします!」と声を出した。

すると、パリ中山さんは嬉しそうにやって来て、「ありがとうございます。どの曲にしますか」と聞いてくれた。

Mr.Childrenの『HANABI』で」と僕が答えると、「ああ、HANABIですね」と言い、すぐに演奏を始めた。

チャチャチャンチャチャン、と、アコースティックギターのやわらかい音が鳴り響く。

パリ中山さんのやわらかい歌声もそれに合っていた。

そして、それを聞いていると、高校生の時の思い出なんかが頭の中に蘇ってきた。

失恋した時、初デートの時、部活最後の試合の時、受験勉強の時・・・。

そんな時間と一緒に過ごした曲を、仕事帰りに生で聴くことになるとは。

人生とはおもしろいものである。

高校の学ランを着ていた自分と、スーツを着ている自分が、同じなのだけれども違うような、そんな不思議な気分になった。

あの時の自分から、変わっている部分と、変わっていない部分を考えたりした。


演奏が終わり、一人でパチパチと拍手をすると、周りの人たちもパチパチとした。

「ありがとうございました。色々思い出しました」とパリ中山さんに感想を言うと、少し笑って「本当ですか。それは良かったです」と言ってくれた。

音楽とは偉大である。

過去を一瞬にして頭の中に蘇らせてくれる、音楽。

タイムスリップをする機械はまだ発明されていないが、人間はすでに音楽を発明したのだ。

僕が生きている間は、音楽さえあれば十分である。


とは言うものの、僕に音楽の才は無い。

歌うことすらままならないため、こうやって、うまく演奏できてうまく歌える人たちには尊敬を隠せない。

流し、すげえわ。

流し、偉大だわ。

これは、お金を払わなければ。

チップだ、チップ。

このような偉大な人には、対価を出さなければ。

パリ中山さんのアコースティックギターの先っぽに千円札が挟まっていたので、きっと千円が相場である。

「あ、ちょっと待ってください」と一言言って、リュックサックから財布を探した。

そして、財布を開き、千円札を探した。

・・・無い。

千円札が、無い。

ちょうど現金を切らしていて、1万円札しかない。

まずい・・・。

1万円を渡すほどではないし、かと言って、お釣りを求めるのは違う。

ここで、ピーンと来た。

・・・2千円札があるじゃないか。

財布の隠しポケット的なところに忍ばせている二千円札

「監督、俺の出番じゃないですか?」と言いたげに顔を覗かせた。

この第4ゴールキーパーを、19年ぶりに出場させる他に選択肢は無かった。

僕は、財布から2千円札を取り出し、「すいません、他にお札が無くて」と、紙幣を渡した。

すると、パリ中山さんは目をガバッと開き、「おお! 2千円札!!」と、僕がカナダ人から受け取った時と全く同じ反応をした。

「いや、ちょっと、たまたま」

「すごい! 久々に見ました!!」

その反応は、周りで立ち飲みしていた人にも聞こえたのか、「あ、2千円札だ」「うわ、今時珍しい」と、話のネタにしていた。

パリ中山さんの反応は冷めることなく、「すごいですね。これはインスタ映えします」と早速スマートフォンを取り出して、写真を撮っていた。

第4のゴールキーパーの本領発揮である。

素晴らしい。

ここまで人を喜ばせられるとは、また、インスタグラムのフォロワー増加のためになるとは、2千円以上の価値がある。

そして、パリ中山さんは僕の方を向き、「もう一曲良いですよ、もしあれば」と笑顔で言ってくれた。

「ああ、それじゃあ」と、僕は「スピッツの『空を飛べるはず』で」

「分かりました!」


僕の想像通り、というか、スピッツの曲は、パリ中山さんの声とアコースティックギターの音色に見事にマッチしていた。

普通のオフィスビルのレストラン街に青空ができたような、そんな開放的な気分になった。

天ぷら丼を食べながら、ついうっとりとしてしまった。

素晴らしい。

第4ゴールキーパーからパスをもらい、そのパスを僕がキープして、パリ中山さんにスルーパス、そしてそこから、パリ中山さんが優しくゴールを決めてくれたような、華麗な流れを感じた。

3人で抱き合ってゴールを喜びたくなった。


演奏が終わってから、お互いに挨拶をし、パリ中山さんは、他の立ち飲み客のところに行ってリクエストに応え始めた。

2千円札のおかげで、僕もパリ中山さんも、気持ちの良い時間を過ごすことができた。

2千円札、ありがとう。

 

次の出番はいつだろうか。

それはわからない。

ただ、2千円札は、財布の中から虎視眈々と出場機会を窺っている。

 

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