madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

madajimaの海外 香港編 その5 - 蹴球

香港オフィスでは、もちろん僕の席は無いので、ちょうど不在にしている人のデスクを間借りしていました。

すぐ後ろがショーンの席でしたが、その他の周りの人たちは知らない人たちばかりです。

会議で一緒になる訳でもない、全く関わりのない人たちの真ん中で、肩身狭くしていました。

そこまで社交的ではない僕は、特に挨拶を交わすこともなく、周りの人たちと喋ったりはしませんでした。

 

オフィスに来て三日目の水曜日の朝、会議が始まる前、僕はその間借りしているデスクでメールをチェックしていました。

すると、背後のショーンの席から会話が聞こえてきました。

「やべーな、トッテナム。まさか、グループステージ突破するとは」

この頃、12月の半ばです。

ああ、昨日、チャンピオンズリーグのグループステージ最終戦だったのか、と気付きました。

「ハイライト見たよ」だの、「まさかバルセロナに引き分けるとは」だの、「まさかインテルが勝てないとは」だの話していました。

ここで、ショーンが、「あ、madajima」と僕の背中に話しかけてきました。

「ん、何?」

「サッカー見るんだっけ?」

「ああ、見るよ」

チャンピオンズリーグ見てる?」

「まあね。プレミアリーグも」

すると、ショーンに話しかけていた男が、「どこのファン?」と聞いてきました。

少し背が高くて、若いです。

大きな目がニョキッと出ていて、ちょっとヤンキーっぽいです。

ショーンが「あ、ちなみに、彼、ショーンね。同じ名前で、サッカー好きで」と説明しました。

オタクっぽいショーンと、ヤンキーっぽいショーン。

同じ名前でも、ずいぶんと違うものだな、と思いました。

「君の名前は? で、どこのファン?」

ヤンキーに真顔で聞かれたことに少し戸惑いながらも、「名前はmadajima。まあ、プレミアリーグで応援しているのは、リバプールかな」と答えました。

すると、彼は「あー、出たよー! やってらんねー!」と大きな声で言いました。

そして、ドスドスと自分のデスクへと帰って行きました。

朝からずいぶんハイテンションな奴です。

どういうこと? という目でショーンを見ると、彼は特に気にした様子もなく、「ちなみに、いつからリバプールファンなの?」と聞いてきました。

「ああ、マイケル・オーウェンがいた頃からだから、2000年くらい?」

すると、ショーンはもう一人のヤンキーショーンに向かって、「おい、madajima、昔からリバプールファンなんだって」と呼びかけました。

すると、ヤンキーショーンは立ち上がり、こっちの方へとテクテク歩いてきました。

「そうなのか?」

「うん」

「最近、ちょっと強いからファンになった訳じゃないんだな」

「違うね」

「そうか」

彼は、納得したような、納得していないような、そんな表情をしました。

「ちなみに、君はどこのファンなの?」

「・・・マンチェスター・ユナイテッド

「ああ」

なるほど、と思いました。

マンチェスター・ユナイテッドリバプールとライバル関係にあり、また2018年12月当時、マンUは絶不調で、リバプールは絶好調でした。

それを踏まえて、僕は、「それじゃあ、俺たち、友だちになれないな」と満面の笑みで言いました。

「は?」

「だって、ほら、君、今のリバプールの調子の良さが、妬ましくてしょうがないだろうから」

初対面の人間から嫌味を浴びらせられたヤンキーショーンは、開いた口が塞がらない、といった感じで、僕を指差してショーンの方を向き、「こいつ、なんて奴だ」と言いたげな表情をしながら、僕のことを可笑しく思っていることが分かりました。

「おまえ・・・おまえ・・・!」と何もセリフを吐き捨てられないまま、再び自分の席へ戻って行きました。

 

その日の会議は早めに終わり、自分の間借りのデスクに戻ってきました。

時間をつぶすためにメールをチェックしていると、「なあ」と、今度は左隣から声をかけられました。

色黒の、キリッとした男前です。

同時に、僕に話しかけることに少し緊張している感じもあります。

「日本から来たの?」と聞かれました。

「う、うん」

「サッカー、好きなの?」

「まあ、見るね」

Jリーグは見るの?」

僕は驚きました。

香港で、異国の地で、「Jリーグ」という単語を聞くことになるとは、一切想像していなかったです。

「見るよ、見る見る」

正直、最近はプレミアリーグの試合を見たりはしていません。

時差の関係で、夜遅くまで起きていなければいけないからです。

基本的に、プレミアリーグはハイライトを見て、解説を聞いて、それで満足するタイプです。

が、Jリーグは違います。

「俺、アルビレックス新潟のファンでさ。新潟出身で。ほぼ毎試合見るよ。弱いけど」

「ああ、新潟ね」

「え? 知っているの?」

「知ってるよ。アレだろ、オレンジの」

「そうそう!」

「なんとかシルバがいるよね。スッゲー良い選手」

「うん。レオ・シルバか、ラファエウ・シルバのことかな。もういないけど」

「今、まだJ1・・・?」

「いや、去年J2に落ちたんだ」

「あ、そうか」

「ちなみに、君はどこを応援しているの?」

「俺は、そうだな、ガンバ大阪だな」

「ええ、そうなの? 何で?」

「そうだな、大阪、よく行くし、遠藤保仁好きだし。すっごい良い選手」

「へえ、大阪によく行くんだ」

「前、見に行ってきたよ。新しいスタジアムに」

「ええ! マジで! いいなぁ。俺はまだ行っていないんだ。席が近いんでしょ」

「うん。でも、すごく・・・」

そんな感じで、会話が続きました。

並みの日本人よりも、Jリーグのことに詳しくて驚きました。

異国である香港で生まれ育った彼が、決してレベルが高いとは言えないJリーグが好きとは、嬉しくなりました。

「ヨーロッパのサッカーも良いけど、Jリーグほど、優勝チームが予想できない、混戦のリーグは他にないじゃん? それに、ここなら直接見に行けるし。だから、好き」

「いや、そうなんだよ! まさしくそうなんだよ!」

すげえ。

めっちゃ話が合う、盛り上がる。

今日の水曜日になるまで、僕は一体なぜ、彼と話していなかったのか、不思議に思い始めてきました。

自分の社交性の無さを呪いました。

こんなにJリーグの話で盛り上がれる奴など、日本にもそういません。

ここで、「ちなみに、名前は?」と僕は聞きました。

ここまで盛り上がっておいて、名前をまだ知らないな、と気付きました。

「ショーンだよ」

「えっ?」

「ああ、そうだよね、ややこしいよね。でも、そっちのショーンともあっちのショーンとも、スペルは違うんだ」

元々のショーンは「Sean」で、ヤンキーショーンは「Shawn」で、Jリーグショーンは「Shaun」とのことです。

近くの席同士で、よくもここまでショーンを雇ったな、と思いましたが、もちろん口には出しませんでした。

まあ、同じ名前とはいえ、オタクっぽい、ヤンキーっぽい、優等生っぽい見た目と分かれていて、見るサッカーも違います。

よく考えたら、僕の地元の同学年に、3人の「サトウリョウ」がいましたが、全員名前の漢字が違って、見た目もチビとデブと長身で違く、また、部活も卓球、柔道、剣道で違いました。

こういう同じ名前事情は、どこの国も似たようなものなんでしょう。

 

こんな調子で、残りの木曜日、金曜日も、3人のショーンと一緒に話しました。

ぶっちゃけ、会議はあまり面白いものではありませんでしたが、この3人のおかげで、オフィスに来るのが楽しみになっていました。

Jリーグ以外にも、彼らが訪れた日本の都市や、食事、店などの話で盛り上がりました。

「香港の人、みんな日本大好きだよ」

「このオフィスでも、ほぼ毎月誰かが行っている気がする」

「日本のチェーン店も、香港で人気だしね」

僕は、そういった話を聞けて、嬉しくなりました。

自分の国について良い印象を持ってくれることが、嬉しくない訳がありません。

僕が嬉しそうにしているのを見たからか、彼らもどんどん話し続けました。

日本人と話せること自体が、もしかしたら嬉しかったのかもしれません。

最終出社日の金曜日の帰り道、Jリーグショーンと一緒に駅まで歩いて、最後にLINEを交換しました。

「東京に来るときは声をかけてよ」

「そちらこそ、次に香港来るときは」と言い合いました。

 

友達です。

正真正銘、サッカーのおかげで、友達ができました。

繋がりができました。

世界が広がりました。

プレミアリーグのおかげです。Jリーグのおかげです。

日本と香港、物理的にも精神的にもかなり離れていると思っていたのですが、サッカーのおかげで、心の距離は遠くないのだと気付きました。

結局は同じ人間同士、そうかけ離れていないのです。

そういえば、エジプト人ムスリムのモハメド・サラーという選手がリバプールで活躍したおかげで、その地域の反イスラム的なツイートやヘイトクライムがかなり減った、という記事を見ました。

自分が応援する選手の信仰や信条を、そうも嫌いになることはできない、という訳です。

サッカーのおかげで、嫌いが好きになった訳です。

 

サッカーってすげえな。

サッカーって偉大だな。

世界平和が叶った時、サッカーがその中心にあるのかな、なんて想像しました。

 

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オフィスからの景色