madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

madajimaの海外 香港編 その4 - 同僚

会議が始まりました。

僕は、シドニーの時の失敗に懲りずに、羽田空港で買ったお土産を持ってきていました。

そして、いつそれをみんなに配るかをよく見ていました。

でも、常に会議室のテーブルの上に菓子はありました。

休憩が終わるたびに誰かが「はいどうぞー」みたいな感じで、テーブルの上で小袋を滑らせて配っていました。

MarsとかSnickersとか、そういう定番のチョコレート菓子です。

不思議に思ったため、ショーンに「これ、みんなが持ってきておすそ分けしているの?」と聞いてみました。

すると、「いや、会社が買っているんだよ」と答えました。まるで、「そんなの普通でしょ?」と言いたそうにしていました。

「ちなみに、カップラーメンとかソフトドリンクとかも休憩室にあるよ。madajimaも好きに取っていいから」

「無料?」

「会社が買っているんだってば」

「なんで?」

ショーンは少し首をすくめました。

「60階だから、降りるのも時間かかるし。会社に遅くまで残る人もいるし」

「へえ」と僕は驚きを隠せないままでした。

たしかに、60階で働くことを想像すると、上ったり下りたりが面倒くさそうだな、というのは分かりました。

 

いずれにせよ、シドニーの時とは違って、おみやげを配りやすい雰囲気でした。

午後の休憩時間中に、少し緊張しながらひっそりと袋を開けて、テーブルの上に置きました。

今回空港で買ったのは、巨峰味のポッキーです。

「巨峰味のポッキーなら、みんなの味覚を外すことはないだろう」という自信半分、「もしかしたら気に入られないかな」とドキドキ半分でした。

僕が袋を開けると、「あら、おみやげ?」と、シドニーオフィスから来ていたアナが嬉しそうにしました。

「わあ、ステキ。ありがとう」と、香港オフィスのフィービーが笑顔になりました。

大きな黒縁メガネの奥で、目が垂れています。

ちなみに、このアナとフィービーどちらも、シドニーのオフィスで一緒の会議に参加していました。

つまり、あの抹茶味の惨劇に立ち会っていました。

その記憶が甦ったのか、お菓子を見て喜んだ後、彼女たちが少し気まずそうにしているのが分かりました。

が、それを打ち破るかのように、フィービーの方が「あの時の会議のこと、覚えてる?」と、苦笑いしながら言いました。

ああ、助かる、とホッとしました。

気まずい感じを保たれるよりも、触れてくれた方がラクです。

「・・・覚えてるよ。まあ、あの時は、チョイスを間違えたね」

「あの時、めっちゃ、あれだったよね・・・アハハ」

この、フィービーが微妙にいじってくる感じに、心が助けられました。

僕のキャラをまだよく分かっていない彼女は、あの件についていじっていいのか探り探りのようでしたが、笑いたい気持ちが勝ったのでしょう。

「私、ポッキーは好きだから」と、すぐに食べ始めました。

どうやら、香港でもポッキーは有名なようでした。

続いて、シドニーオフィスから来たアナも、ポッキーに手を伸ばしました。

「まったく、なんでみんな、あんな風に言ったんだろうね」と言っていました。

アナは、勤続25年ほどの大ベテランです。大人の発言をしてくれました。

僕の記憶の中では、アナもその「あんな風に言った」「みんな」のれっきとした一員でしたが、心づかいにありがたくなりました。

「おいしい」

「おいしい」

「おいしいね」

「おいしいね」

「ありがとう、madajima」

「ありがとう、madajima」

気遣いもあったのでしょうが、心からホッとしました。

あのシドニーでのお土産の悪夢を取り払った感じがしました。

もう日本に帰ってもいいかな、とすら思いました。

ここで、この二人の女性から「おいしい」を頂いたので、僕は自信が出てきました。

その勢いのまま、「ショーンも、一本どう?」と聞きました。

すると、「いや、おれはいいや」と突っぱねました。

「おまえええええ!!」と心の中で叫びました。

 

夜、会議が終わったあと、飲み会を開いてくれることになりました。

急な企画だったようで、参加者は、僕、アジアのファイナンス部門のトップ(面倒なので、AFTと名付けます)、ジェニファーとフィービーの4人だけでした。

場所は、オフィスの近くにある普通のブリティッシュパブです。

香港らしさのかけらもありませんが、まあ、そんなもんでしょう。

ただ、そこには、香港で醸造されたビールが10種類ほどありました。

そのほとんどを見たことがありませんでした。

香港に住んでだいぶ経つAFTが、その中のビールをすすめてくれたりしました。

「これ、広東語で『ガイジン』って意味だってさ」とAFTは笑みを浮かべました。

確かに、ここでは、僕も彼も「ガイジン」です。それを注文しました。

それが届き、乾杯してから、「香港はどう?」と聞いてきました。

「やっぱり、日本と人も景色も全然違うから、たのしいね」

「そうか、そうか」とAFTは嬉しそうにします。

「特に、建物が違うよね。あの、オフィスの近くにある、巨大ロボットみたいなビルとか、日本じゃ絶対ありえない」

「巨大ロボット?」

「あの、ほら」機動戦士ガンダムビグザムみたいな、と口から出そうになりましたが、AFTが分かるわけもありません。

「なんか、こう、ビルの1階から20階くらいまでの真ん中が空洞になっているやつ。ちょっと赤い色をしている」

「ああ! それ、俺が住んでいるマンションだよ」

「えっ?」

まさか、でした。

僕の大ボス、AFTが、あの「不気味な形」と思ったあのマンションに住んでいたのです。

僕は、なんと反応したら良いか分かりませんでした。

彼が住んでいる建物について「不気味な形ですね」と正直に感想を言うわけにもいきません。

「ビルのデザインのモデルになったのはなんだろうね」なんて言っても反応に困られるだけです。

少し考えた結果、「オフィスが近くて良いね」と平凡なことを言いました。

すると、「あ、そういえば」と、AFTは何かを思い出したようにスマートフォンを取り出しました。

「うち、最近、Google Homeを始めたんだよ」と笑顔で言いました。

「え? Google Home?」

「そう。例えば」

AFTはスマートフォンをいじって、Googleのアプリを立ち上げました。

「今、ここから、音楽を流すことができるんだ」

「え? 遠隔で?」

「そう。家のスピーカーと繋がっているんだ」

そして、AFTはラブソング的な曲を流し始めました。

「今、うちの奥さんがいるから、びっくりするだろうな」

AFTは子どものように笑っています。

確かに、家にいる時に、急に音楽が鳴り始めたらビビるでしょう。

「そろそろ止めるか」と言って、AFTは音楽を止めました。

するとすぐに、AFTの元にメッセージが来たようです。

「あ、ほら、うちの奥さんから」とスマートフォンの画面を見せました。

「I love you too xxx」と書いてあります。

AFTは、会社で見せたことがないようなにやけ顔になりました。

口角が、とんでもないところまで上がっています。

ハッハッハ、と僕は声を出して笑いました。

この流れは一切予想していませんでした。

急にGoogle最新鋭の技術を見せてもらった直後に、お二人様のアツアツな感じを見せてもらうとは。

もはや笑うしかありません。

この世界観、ものすごいです。

ビグザムGoogle Home、I love you。

どんな組み合わせだよ。

 

それから、僕はフィービーと話し始めました。

短い黒髪、細い目、大きな黒縁メガネ、ぽっちゃり体型ののフィービーです。

その見た目から分かる通り、みんなから愛されているタイプのキャラクターです。

それでも、一応マネージャーです。

「あ、ねえねえ」と、彼女はスマートフォンを取り出して、写真を見せてきました。

そして、「これって、どういう場所なの?」と聞いてきました。

その写真を見ると、店の看板に大きく「無料案内所」と書いてあります。

僕は目を見開いてビックリし、笑ってしまいました。

また、どう説明していいか困りました。

風俗の英訳を頭の中で探しました。

「えっと、アレだよ、娼婦の紹介を無料でするところ、みたいな」

「ああ、なるほどね。行ったことある?」

「いやいや、まさか」

「あ、そうなんだ。最近東京に行った友達が、この写真送ってきて、漢字でなんとなく分かるけど、『一体何を案内するの?』みたいな。アハハ、そういう案内ね」

「そうだね。あまり近寄らない方が良いよ」

「あ、そうそう、私、今度東京に行くんだ」

「え、そうなの?」

「もし良かったら、オススメの店とか教えてよ」

「うん、もちろん!」

ここで、「半兵衛」という、古い昭和スタイルのチェーン居酒屋を教えてあげました。

外国人を連れて行くと、絶対に喜ばれる店です。

昔の日本にタイムスリップしたかのような、他の国にはない雰囲気を味わうことができます。

「ちなみに、東京のどこに泊まるの? この店、色々な場所にあって」

「えっとね・・・ちょっと待って・・・」

彼女は再びスマートフォンをいじり始めました。

そして、「空港が中部国際空港で・・・」と言いました。

「えええ?」

「え? どうしたの?」

中部国際空港? それ、名古屋じゃん。東京じゃないよ」

「ん? どういうこと?」

「それ、名古屋っていう、全然違う都市だよ。新幹線乗らないと、東京には・・・」

「・・・ふーん」

彼女は、分かったような、分かっていないような表情をしていました。

一体、僕が言っていなかったらどうなっていたのでしょう。

「うわー、東京着いたー! 名古屋城すごーい!」とでもなっていたのでしょうか。

この後どうなったか、僕は分かりません。

 

あっという間に12時になり、帰ることになりました。

僕は、シドニーから来ているアナと一緒のホテルに泊まっていたため、一緒にタクシーに乗ることになりました。

AFTとフィービーにバイバイをして、車寄せでタクシーに乗り込みました。

アナが、「Gateway hotel, please」と、オーストラリアの強い訛りで言いました。

すると、男の運転手が首をひねって僕の方を向き、「!@#$%」と、中国語で何かを言いました。

おそらく、僕を香港人だと思って、広東語で「どこに行くの?」と聞いてきたのでしょう。

目が合ってそれは伝わりましたが、僕は香港人ではないので、英語で答えるしかありません。

マルコ・ポーロ・ホテル、プリーズ」と答えました。

ホテルの正式名は、「マルコ・ポーロゲートウェイホテル」なのですが、「ゲートウェイ」よりも、「マルコ・ポーロ」の方が通じているのかな、と予想しました。

ありがたいことに運転手はウンウン、と頷き、車を発進させました。

アナはすぐに、「だから、香港でタクシー乗るの、嫌なのよね」と笑いました。

僕は、ただ単に、ホテルの名前のせいで運転手は分からなかったのかと思いましたが、アナは、自分のオーストラリア訛りが通じなかったのだと思ったかもしれません。

一方、空港からホテルに行く時のおじいちゃん運転手のことが頭にあったので、「そう?」ととぼけて、笑いました。「俺は、香港のタクシー、好きだけど」

それから、タクシーがブーンと走ると、すぐにホテルの近くになりました。

アナが「ここで右に行ってください」と運転手に向かって言いました。

運転手が不思議そうにし、タクシーのスピードが緩みました。

アナは、僕が一日目に着いたような、黒い壁の部屋があるホテルの車寄せを目指したのかもしれません。

ですが、車通りもほぼなくなり、路上停車で良いと思った僕は、「まっすぐでも良いですよ」と言いました。

僕の声を聞いたのか、タクシーは、普通のスピードに戻って直進しました。

すぐに、アナに「ほら、車通りももう無いから」と、直進でも良い理由を説明すると、「ああ、そっか」と簡単に答えました。

そして、ホテルの入り口の付近に来ました。

例の、交差点の手前です。

「ここで大丈夫です」とアナが言いました。

ですが、タクシーは止まる気配も見せずに、進み続けます。

僕は焦って、「すいません、ここで」と言いました。

運転手はビクッとし、ブレーキを踏んでタクシーを止めました。

運転手が振り返り、「$%*&」と、おそらく代金の中国語みたいなのを言うと、アナは、「私が経費で落とすから」と言って、紙幣を何枚か出しました。

運転手がそれを受け取り、お釣りをアナに渡した後、アナは、「レシートお願いします」と言いました。

ですが、運転手は全くの無反応です。何もしようとしません。

なので、僕は「レシート、もらえますか?」と言いました。

すると、運転手は、思い出したように、少し慌てた様子でレシートを機械から取り出し、アナに手渡しました。

「サンキュー」とアナは言い、僕もそれに続いて「サンキュー」と言って、タクシーから出ました。

タクシーから出てすぐ、アナは「すごい男女差別」と、顔は笑顔のまま文句を言いました。

ハハハハハ、と僕は声に出して爆笑してしまいました。

確かに、アナが何かを言っても一切行動は取らずに、逆に僕が指示した時は、必ずその通りのことをしてくれました。

ですが、それをもって、男女差別呼ばわりするのは違うと思いました。

僕が男だから聞いてくれた、というのは違う気がしました。

「いやいや、違うでしょ」と僕はなだめますが、アナは、「私のこと全部無視するなんて」と不満そうにしました。

「きっと、俺の日本人英語の方が分かりやすかったんだよ。ほら、彼らも、英語が母国語じゃないんだし」と言いました。

そして、自分で言って、自分で笑ってしまいました。

日本では、「日本人の英語は伝わりづらい」みたいなことがよく言われていて、日本人の英語の発音を馬鹿にするような人がたくさんいますが、逆にここ香港では、ネイティブスピーカーのアナの英語は一切通じず、ジャパニーズの僕の英語の方が簡単に通じた訳です。

そんな状況が、僕には嬉しくてたまりませんでした。

「最悪のタクシーの運転手だったわ」とアナはまだ不満そうにしていました。

「香港のタクシー、大好きだなあ」と、僕は笑うのを止められませんでした。

 

f:id:wattaso23:20190831092033j:plain

夜のビグザム(右端)とその周辺

f:id:wattaso23:20190831092043j:plain

香港に移り住んだ英国人が作った「外人」という意味のビール