madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

madajimaの海外 シドニー編 その8 - ジャパニーズ

「コンニチワ!」と元気な片言の日本語が聞こえて来ました。

レストランのバス停で乗った、バスの運転手です。

おっちゃんは笑顔で「日本人だよね? どこに行くの?」と聞いてきました。

「あ、えっと」と僕が行き先を告げると、「Oh, wonderful!」と言いました。

どうやら、彼にとってもお気に入りの場所のようです。

「タキ、メッチャ、ステキ!」と、その感動をあらわにしました。

面白いのは、運転手兼ガイドの彼は、ヘッドセットをつけて喋っているので、彼の日本語が、2階建のバス全体のスピーカーに響き渡っていることです。

乗客は数人しかいないとは言え、僕との会話が、バス全体に筒抜けでした。

思わぬ対応に笑みを浮かべながら、僕は2階に上がって、一番前の席に座りました。

すると、おっちゃんは再び喋り始めました。

「今乗ったジャパニーズフレンドは、滝を見に行くそうです。素晴らしいですね」

「バスの他のフレンドは、誰もそこでは降りないんですよね。ああ、なんてもったいない」

「さて、ここで、この地にまつわる話を紹介しましょう」

おっちゃんは、ウネウネ曲がった山道でバスを軽快に走らせながら、喋りまくりました。

どうやら、イギリス人の旅行客同士がこのブルーマウンテンで出会い、恋に落ちて、結婚までしたそうです。

「こんなキレイな景色を見たら、そりゃ恋に落ちますよね」みたいなことを言っています。

もう、楽しそうに、嬉しそうに話しているため、こちらも楽しい、嬉しい気分になってきました。

同時に、狭い道があちらこちらにうねっているため、怖いから運転に集中してくれ、とも思いました。


やがて、バスが僕の目的地に着きました。

「マイジャパニーズフレンド、着きましたよ」とおっちゃんが言いました。

「このバスの中であの美しい滝を楽しむのは、このジャパニーズフレンドだけです」と続けると、笑い声が聞こえてきました。

2階から降りてくると、他の乗客から手を振られました。なんだか、有名人にでもなった気分です。

ちょっと恥ずかしい気分のまま「サンキュー」と言って降りると、おっちゃんも一緒に降りてきました。

おっちゃんは、「いいか、ここからこう行って、左へ行って、そこから・・・」と道を説明してくれました。

「・・・そうすると、スバラシイタキ、さ。タノシンデクダサイ!」

ここまで来ると、感慨深くなりました。

これがオーストラリア流のおもてなしか、と思いました。

「ありがとう! 日本語上手ですね」と言うと、笑顔を浮かべ、バスに戻って行きました。

僕は、感慨深くなったあまり、教えてくれた滝への道を完全に忘れてしまいました。


あちらこちら歩いたり、Googleマップを見たりしながら、しばらくして、ようやく滝に辿りつきました。

ここが、おそらく、バスのおっちゃんが言っていた滝です。

水の量はそこまで多くないですが、15メートルくらいの高さと5メートルくらいの幅はあるため、下の池に打ちつける音はなかなか大きいです。

滝の下の池は浅く、水飛沫が舞っていて、それに太陽の光が反射し、うっすら虹を作っている感じは、中々素敵でした。

滝の近くならではの、涼しい、新鮮な空気も心地いいです。

辺りには一切人影がなく、聞こえてくるのは滝と鳥の音だけでした。

完全に一人占めです。

この美しい滝、今、全部、俺のものです。

この瞬間、この滝を見れているの、俺、だけです。

そこに、たまらなく嬉しくなりました。


そこから再び歩き始めると、色んな美しい景色が出てきました。

スリーシスターズと呼ばれる、3つの連なった岩が見えたり、小さな滝が所々あったり、小さな鍾乳石があったり。

そういったものを発見するのが楽しくて、アップダウンの激しい山道も気になりませんでした。

いくら歩いても人はまばらで、ここでも、自然の独占感を味わいました。

ふと、ここで、「今、この半径200mくらいの場所に、人間、俺だけじゃね?」と思いました。

「今、ここで、何しても、人間には気付かれない」

「今、ここで、何しても、誰も何とも思わない」


全ての問題は対人関係からやってくる、と、心理学者のアドラーは言いました。

でも、ここにいるのは、ここにいるのは僕だけです。

なんの対人関係もありません。

よって、問題もありません。

悩みがありません。

すっげー!

うっほーい!

うっひゃーい!

頭の開放感がガッバーとなりました。

すげえ、すげえ。

すげえぞ!


そんなハッピーモードで歩き続けていると、立ち入り禁止のロープがある場所を見つけました。

危険だから入るな、とのことです。

ですが、見た目、そんな危険そうでもありません。

おそらく、これまで雨が降り続いていたから、このロープが張られたのだろう、と考えました。

ですが、今日は晴れです。

また、ここで僕を監視する人はいません。

鳥くらいです。

僕を見ているのは、鳥やトカゲくらいです。

対人関係は存在せず、鳥やトカゲとの関係しかありません。

僕は、頭を下げて、立ち入り禁止のロープをくぐりました。

すると、そこは崖になっていて、そこから、最初に見た滝が見えました。

先ほど見たのは、滝が水を打ちつけている下からでしたが、今回は上からです。

「おお」と僕は思わず声が出ました。

アップアンドダウンを繰り返した結果、いつのまにか、自分が回り回って、上まで来たことに気付きました。

下からも良かったですが、上から俯瞰して見るのもまた良しです。

僕がいた滝の下には、一人旅行客がいて、写真を撮っているのが分かりました。

ああ、僕があそこにいた時も、誰かがここから僕を見ていたのかな、と思いました。

へえ、おもしろいな。

ただ、崖が少し崩れてかけているのが気にかかり始め、「本当にここは危険なんじゃないか」とビビってきたので、写真をパパッと撮り、再びロープをくぐりました。

ふう。

ドキドキしたぜ。


それからも、どんどん歩き進みました。

どんどん、どんどん、です。

違う景色を見たい、それだけのために、山道の階段を登り、降り、そしてまた登りました。

僕に、何も怖いものはありませんでした。

日本で、東京では、多くの人が狭いところに暮らしています。

そうするには、いろんなルールを守らなくてはいけません。

他人に迷惑をかけないようにしなくてはいけません。

他人の目を気にしなくてはいけません。

ただ、ここ、ブルーマウンテンでは、そういうことは考えなくていいのです。

迷惑をかける人間が、存在しないのです。

ポイ捨てとか植物をむしりとるとか、自然にさえ迷惑をかけなければいいのです。

それだけです。

その開放感が、ハンパじゃありませんでした。

相当な距離をアップダウンしているはずですが、疲れは一切感じませんでした。


そうして、僕は、ブルーマウンテンの端っこにたどり着きました。

そこから再びバスに乗って駅まで戻り、少し食事をとり、電車に乗って、名残惜しみながらシドニーの市街地に戻りました。

もちろん、この時は、電車の中で一切写真を撮りませんでした。

さて、夕飯です。

金曜の夕方、ということで、どのレストランも混むと思い、持ち帰りを注文して、外で食べようと思いました。


どうしようかな、と、海沿いにレストランが連なっているところを歩いていると、フィッシュ&チップスのレストランがあり、「持ち帰りOK」と書いてあったので、そこに入りました。

短い金髪で、腹が出ているおっちゃん店員と目が合ったので、「持ち帰りで良いですか」と言うと、「はいよ、じゃあ、そこのカウンターに座って」と言われました。

隣では、黒髪のお兄さんがむしゃむしゃとカレーを食べていました。

メニューを渡され、「魚とポテトと、サイドディッシュの野菜の種類を選んで」と言ってきます。

僕は、魚の英語の名前がよくわからないので、悩んでいると、「これがマジおいしいよ」と、おっちゃんがカジュアルに言ってきました。

すると、カウンターに座るお兄さんも、「ああ、それはマジでうまい」と同意してきました。

それ以外のを選ぶ理由も無いため、「じゃあ、それ、お願いします」と伝えました。

「心配するな、俺を信じろ。それじゃ、待っている間にビールでも飲む?」

「え? あ、はい、良いですね」

ピルスナーペールエール? ラガー?」

「ラガーで」

「はいよ」


ビールを飲む気は一切無かったのですが、まあついでに良いかな、と思いました。

おっちゃんが缶を持ってきて、グラスに注ぎました。

「この缶のラベルの人は、昔の総理大臣なんだ」と言って、空いた缶もテーブルに置いたままにしました。

一口グビッと飲んで、おいしいな、と思いながら、その缶を手に取って眺めました。

そうか、オーストラリアでは、こういう風に持ち帰りの食事を待つんだな、時間の有効利用だな、となんとなく思いました。

スマートフォンをいじって待つよりも、のんびり待つことができていい感じです。

すると、隣のお兄さんがモグモグしながらこちらを向いてきて、「どこ出身?」と聞いてきました。

あまりに自然に話しかけてくるので、知人かと思ってしまうくらいでした。

「日本です」と僕は答えました。

「えっと、今は夕方だから、『コンバンワ〜』」

「ああ、すごい! コンバンワ」

「日本のどこから来たの?」

「東京」

「へえ。シドニーに来たのは、仕事? ホリデー?」

「仕事で来て、今はその後の有給休暇」

「ふーん。あ、ちなみに、彼の奥さん、日本人だよ」

お兄さんは、先ほどのおっちゃんを指差しました。今は、他のお客さん用に飲み物を準備しています。

「ええ!」

「こいつもまた、日本人の女を連れて帰ってきたんだよ」

「ああ、よくあるやつですね。おかげで、日本に女性はあんまり残ってないですよ」

「あはは」

そして、僕はおっちゃんに聞いてみました。

「どこで奥さんと会ったんですか」

「大阪で、旅行中に出会ってね」

「ああ、良いですね」

「密輸入してきたんだよ」

「ははは」

すると、お兄さんが僕に聞いてきました。

シドニーに来てから、オーストラリアの女の子を誘ったりした?」

「いやいや、とてもそんなこと」

「いやいや、やってみなきゃ分からないだろ」

「こっちの女性は、見た目がちょっと怖いので」

「ははは、まあ、確かに『イラッシャイマセ〜』とか、可愛く言わないよな」

「まあ、そこは、日本が懐かしくなりますね」


それから、色んなことを話しました。

お兄さんが、実はここの店員で、今はまかないを食べていること、最近関西に観光に来たこと、そこで大きな地震に遭ったこと、今は、アニメやテラスハウスをよく見ること、オーストラリア土産にはカンガルーのジャーキーが良いこと、などなどを話しました。

ものすごくフレンドリーに話してくれて、かっこいいお兄さんだな、と思いました。

そこに、おっちゃんが戻ってきました。

すると、急に、「◯んこ」と言ってきました。

「はあ?」

それから、おっちゃんが次々と汚い日本語を発してきました。

あまりに堂々と言うため、「ちょっと、やめてよ」と僕が周りを気にしながら困ると、おっちゃんはその反応を面白がり、どんどん大きな声で言ってきました。

「ちょっと待って、何で知ってるの?」

「そりゃあ、知ってるさ」

すると、お兄さんが「ちょっと待って、『◯んこ』って何?」と話を広げてきました。

おっちゃんは、その英語名を言う時だけ小声になり、お兄さんが「ああ、なるほどね」とうなずきました。

それから「汚い日本語教室」みたいなのが始まってしまい、彼らだけやたら盛り上がりました。

僕は、ブルーマウンテンのバスのおっちゃんを思い出しました。

「タキ」とか「タノシンデクダサイ」とか、綺麗な、良い日本語だけを喋っていたバスのおっちゃんとは、まるで大違いで、その対比をおかしく思ってしまいました。


ようやくフィッシュ&チップスが出来上がったようで、おっちゃんが持ってきました。

ずいぶん時間がかかりましたが、レストランの2人と一緒に過ごした待ち時間は、かなり楽しかったです。

「サヨウナラ」とおっちゃんが言ってくれました。

「また出張で来たら、ここに来いよ。そうしたら、ビールおごってやるから。名前は?」

「madajima」

「じゃあな、madajima」

お兄さんも続いて、「じゃあね」と手を振りました。


ちょうど、フィッシュ&チップスの近くに船着場があり、ホテルの近くの船着場に行くようなので、僕はそのフェリーで食べることにしました。

空は、完全に暗くなる少し手前で、なんだか不思議な青さを帯びていました。

水色の昼の空と、真っ暗な夜の空の、ちょうど中間のような色でした。

ここまで純粋な青を空に見たのは、初めてのような気がしました。

また、この青に、ビルや橋の照明が見事にマッチしていました。

この景色を見ながら、フィッシュ&チップスを食べていることに、特別な喜びを感じました。

持ち帰りで食べることにしたこと。

あのレストランで持ち帰りを頼んだこと。

フェリーに乗りながら食べることにしたこと。

全ての選択が、正しかったように感じました。


その後、フェリーを降りてから、そのハーバーブリッジの景色をカメラに収めたり、色んな角度から見ようと歩いてみたりすると、空も暗くなり、夜になりました。

それから、スーパーマーケットに行って明日の朝食を買い、外に出ると、「パンパーン! パーン!」と音がし出しました。

最初、「銃撃戦か?」と思いました。

「オーストラリアでテロなんじゃないか?」と考えだすと止まらなくなり、心臓がドキドキしました。

こんな良い1日の最後に、銃撃戦?

確かに、今日は良い日すぎるよな。

ほぼ全てがうまくいった、良い日すぎるよな。

銃撃戦の流血で終わるのも、分かる気がするな・・・。

ですが、聞こえてきたのは、悲鳴ではなく歓声でした。

ハーバーブリッジに近づいてみると、色とりどりの花火が舞っていました。


へえ。

ふうん。

そっか。

僕は、しみじみとしてしまいました。

こんなに良い1日のフィナーレが、花火とはね。

この良い1日が、さらに良くなってしまうとはね。

でも、なんで花火?

もしかして、僕の誕生日だから?

僕の誕生日を祝ってくれるために、誰かが花火を打ち上げてくれた?

いやいや、そんな訳はない。

たまたま、僕の誕生日に、花火が上がったんだ。

それはそれで、また良いね。


ただ、この花火、オーストラリア製だからか、少し、輪っかが小さいかな。

日本の花火なら、銃撃戦とは勘違いしないからね。

日本の花火は、勘違いするなら、爆発だからね。

でも、良いもんだわ。

花火は、いつでもどこでも小さくても、見れたら嬉しいもんだよな。


シドニーの街への感謝と、母国の花火への誇りを胸に、僕は笑顔で眠りについて、誕生日が終わりました。

 

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