madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

madajimaの海外 シドニー編 その5 - オミヤゲ

僕はせかせかとトイレに行きました。

別にあれが近かった訳ではないですが、急ぎました。

そして、用を足していたら・・・。

僕はガバッと目を覚ました・・・。

自分は東京のアパートのベッドにいました・・・。

実は、今までのことは全部夢だったのでした・・・。

なんてことは、もちろんありませんでした。

 

すると、ショーンもトイレにやってきました。

僕と同じく緊張でもしているのかと思いましたが、無表情のままで、一切緊張している様子は感じ取られません。

特に言葉を交わすでもなかったですが、「僕たちの立場が一緒なら、膀胱も一緒なんだな」と、妙な安堵感を覚えました。

 

会議が始まり、僕は必死に話を聞きました。

僕が発言することは一切なく、ただ話を聞いて、黙ってメモを取っていました。

それが数時間続いたあと、15分の休憩時間になりました。

皆せかせかと外に出て、メールチェックなり、電話なり、タバコを吸うなりしに行きました。

そして、僕とショーンが会議室に残りました。

それもそのはず、トイレも先ほど済ませたばかりですからね。

膀胱は一緒なんだな、と改めて思いました。

 

「madajimaは、東京のどこに住んでいるの?」

ショーンはそう口を開きました。

相変わらず無表情のままです。会ってから、表情の変化を一つも見ていません。

「ああ、東京の東側の方?」

「どの辺り?」

「西日暮里っていうところなんだけど」

「新宿とかに近いの?」

「あー、上野に近いかな。上野から、山手線で3駅」

「ふーん。なるほどね」

「え、東京に来たことあるの?」

「まあね。日本にはよく行くよ」

「え? マジで?」

「最近は、九州に行ったよ」

「へ?」

「なんて地名か忘れたけど、一番南から、北の、フクオカ、だっけ? に運転したんだ。香港と一緒で、車が左側だから楽なんだよね」

「え、九州でドライブ? 九州、俺ですら行ったことないのに」

「その前は四国にも行った。良かったね、あそこ」

「やべ、四国にも行ったことない、俺」

そんな感じで、ジャパン・トークが続きました。

ショーンは、僕の想像を超える、日本大好きっ子でした。

僕の行ったことのないラーメンのチェーン店の名前を出したり、それらが香港にも進出していること教えてくれたり、その話は、休憩時間が終わるまで続きました。

その間も、ショーンはずっと無表情でしたが、話している内容からして、日本のことが好きだったので、日本人である僕が好きなのは間違いありませんでした。

安心の日本ブランド。

日本から来たのが僕だけ、とあって、不安がかなり大きかったですが、まさかこのブランドが、この会議において僕を安心させてくれるとは、夢にも思っていませんでした。

日本人で良かった、と思いました。

 

その次の休憩時間でも、僕はショーンと話していました。

日本食の話で、ラーメンと牛丼が大好きであることを語り、「次は牛カツを食べてみたいな」と言っていました。

確かに、ショーンの体型的に、ラーメンと牛丼が好きそうではあります。

別に太っている訳ではないんですが、痩せてはいません。

「ああ、牛カツはオフィスの近くにあるから、次東京に来た時、連れて行ってあげるよ」と僕は言いました。

ショーンは無表情のままでしたが、「じゃあ、madajimaが香港来た時は、色々連れて行ってあげるよ」と言いました。

もはや俺たちマブダチだな、と思いました。

日本人であるだけで、海外の人と友達になれるとか、日本人すげえな、と思いました。

日本人、ハンパねえわ。

俺、生まれた瞬間に相当な地位を手にしているわ。

僕は、日本から遠く離れたオーストラリアの地で、この日本人の地位を築いてくれた母国の先祖に、深く感謝をしました。

 

ランチは、デリバリーのサンドイッチを、会議室で食べるタイプでした。

人が必死にプレゼンテーションをしている中、モグモグとサンドイッチを食べるのは変な感じでしたが、逆の立場じゃなくて良かったな、と思いました。

 

それから、再び休憩時間になりました。

午後3時ほどです。

ここで、あの、成田空港で買った、お土産の封を開けようと思いました。

抹茶味のチョコ饅頭は、午後3時のおやつにピッタリなはずです。

 

正直、緊張しました。

他の誰かがどこからかお土産を持ってきていたら、その人に便乗しようと思いましたが、そんな人はいないようです。

また、自分が声を出して、「日本からお土産持ってきましたーどうぞー」みたいなノリを、このオールスターの夢の球宴で出来る自信がありませんでした。

なので、僕は、こっそりとプロジェクトマネージャーに声をかけて、「日本からお菓子を持ってきたんだけど・・・」と渡しました。

すると、プロジェクトマネージャーはめちゃくちゃ笑顔になり「わお! 素晴らしい!」と言いました。

おお、この反応、すごいな、と驚きました。

日本では、お土産はもはや義務になっているので、お土産をもらうこと自体にそこまで喜ばないでしょう。

今まで見たことのないような喜ばれをされ、単純に嬉しかったです。

 

すると、プロジェクトマネージャーが「madajimaがお菓子を持ってきてくれましたー」と言いながら箱を開けて、テーブルの上に置きました。

すると、日本によく来る、アジアのファイナンス部門のトップが真っ先に喜んでくれました。

「あーナイス、madajima! あ、これって、日本語でなんて言うんだっけ? お、お・・・」

「おみやげ」

「それだ! サンキュー!」

彼に続いて、みんなが僕に「サンキュー、madajima」と言ってくれました。

このお土産を通して、オールスターが僕のことを知ってもらえるようで、嬉しかったです。

こうやって、日本のビジネスの場でも、お土産が義務化されていったんだろうな、と感じました。

もしかしたら、これがきっかけで、オーストラリアにもお土産文化が広まるのかな、と思いました。

 

が、そうなることはなさそうでした。

「うえ・・・何これ」

「うわっ・・・」

「う・・・」

次から次へと、嗚咽が聞こえてきました。

みんなの「サンキュー、madajima」の笑顔が、辛そうな表情に変わりました。

僕はそれを見て、頭が真っ白になりました。

「にがっ」

「何これ、なんなの」

「ごめん、水ちょうだい」

英語には「お土産」という単語が無いばかりか、「気遣い」みたいな単語も無いため、どんどん頭に浮かんだことを口に出していました。

その度に、僕の心にグサリグサリとナイフが差し込まれました。

どうやら、僕が持ってきたお土産は、オールスターの口に一切合わなかったようです。

 

ここで、僕も食べてみました。

100円玉くらいの大きさの、小さな抹茶のチョコ饅頭です。

抹茶のパウダーがかかっていて、その中にトロリとしたチョコ饅頭が入っています。

口に入れてみたら、ちょっと苦い感じがしました。

本物の抹茶みたいな味です。

ただ、そのパウダーを乗り越えたら、甘くてトロリとしたチョコが待っています。

このトロリとした感じが、苦い抹茶の味とうまくマッチしていました。

個人的には、その苦さと甘さのハーモニーが美味しかったです。

恐らく、日本人のほとんどはおいしいと思うはずです。

日本人の舌に良く合うおいしさです。

一方の彼らは、その抹茶パウダーの苦さでギブアップのようでした。

さすがに吐き出しはしていませんでしたが、飲み込むようにして食べていました。

 

そこで、僕は隣のショーンを見ました。

あまり食べそうな雰囲気を出していません。

僕が「どう?」みたいな仕草をしました。「食べてみない?」

ラーメンや牛丼といった日本食が好きなショーンは、抹茶も好きかなあ、と思いました。

ショーンも、日本らしい苦さと甘さのハーモニーを楽しんで、「俺はおいしいと思うけど」みたいなことをぼそりと言って、カバーしてくれることを期待しました。

「いや、俺はいいや」

「へ?」

「いや、抹茶は、ちょっと」

マジかよおおお。

日本好きなんじゃねえのかよおおお。

俺たちマブダチじゃねえのかよおおお。

 

僕は完全に打ちひしがれました。

誰もおいしいと言いません。

誰もありがとうと言いません。

マブダチと思っていたショーンもマブダチじゃありません。

この会議室に、微妙な空気が漂いました。

僕が持ち込んだこの抹茶味チョコ饅頭により、雰囲気がどんよりとしました。

全て、僕の責任です。

穴があったら、潜り込みたかったです。

翼があったら、飛び立ちたかったです。

海があったら、飛び込みたかったです。

 

僕は、自分が日本人であることを呪いました。

日本の舌が、世界の基準と全然違うことを呪いました。

僕が日本人として生まれたことは、お土産の世界で、とんだハンディキャップなのだな、と気付きました。

日本人として生まれた時点で、僕はとんだ足かせ、いや「舌かせ」をつけられているのだな、と思いました。

 

ところが突然、そんな打ちひしがれた僕を救うような、風のような声が響きました。

「これ、日本だと罰ゲームで食べるの?」

すると、みんながドッと笑いました。

「あれでしょ、誰かがミスしたら食べるやつでしょ」

その発言により、みんなが、苦い表情から、笑顔に変わりました。

それを言ったのは、アジアオセアニアファイナンス部門のトップです。

この会議室で一番偉い、強面の彼が、強面のまま、少し笑いを混ぜて言ってきました。

ありがてえ。

ありがてえよ。

僕は心の底から思いました。

このタイミングで、このツッコミほど、このイジりほど、ありがたいものはありませんでした。

「ごめんなさい」と僕は言うと、プロジェクトマネージャーが「さて、会議の再開しましょう」と言ってくれて、なんとか乗り切ることができました。

 

その後、だんだんと、「あの成田空港のお土産屋、なんてことしてくれてんの?」と、お土産屋を責め始めました。

空港の日本のお菓子が、海外の人にウケないって、売る場所間違えていませんか?

空港じゃなくて、田舎のサービスエリアとかで売ってくれませんか?

海外の人、甘ったるいのしか食わないんですよ?

空港では、苦いものが一切入っていない、砂糖だけのものを売ってくれませんか?

 

考えれば考えるほど、イライラしてきました。

次は絶対にお土産を買わないようにしよう、と思いました。