madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その12 - 跳べ

「madaoさん、ポーランド戦の最後、どう思いました?」と、僕の上司が聞いてきました。

この日は6月29日、金曜日。

誰もが、ワールドカップの日本対ポーランドのことを話していました。

皆、僕がサッカー好きであることを知っているので、廊下ですれ違う度、ポーランド戦の僕の意見を聞かれました。

「いやー、負けてもいいから、攻めに行って欲しかったですね」

「まあ、新潟の星、酒井高徳の躍動が見れたので良かったですけど」

僕は、そう答えていました。

普段、サッカーには興味のない人も、僕にサッカーについて話しかけてくれるため、なんだか解説者気分に浸ることができました。

ですが、なんだか、気分が優れません。

サッカーの話です。解説者です。楽しいはずです。

ワールドカップです。お祭りです。楽しいはずです。

しかも、金曜日です。明日は土曜日です。明後日は日曜日です。楽しいはずです。

でも、なぜか、心が重い感じがしました。

 

老子です。

ポーランドの試合が終わった後、僕が良い気分になっている時を狙うかのように、おそるおそる「来週、名古屋にBBQ行ってきていい?」と聞かれたのが、すごく悲しかったです。

「一緒に行かない?」が無いのも悲しかったです。

まあ、たぶん断るんですが。

このようなのは、僕が思い描いていた関係ではありませんでした。

 

そして、その心の重さにのしかかるようにして、嫌なことが起きました。

仕事です。

ちょっと色々あって、めちゃくちゃイライラしました。

面倒なので説明はしないですが、そして、今振り返ると些細なことなのですが、とにかくイライラしていました。

そして、イライラを通り越して、少し悲しくなっていました。

 

また、仕事中ですが、海老子のことを考えました。

こういったイライラしたことを、僕は僕の彼女に相談したいんですが、こういう話は、まさに海老子が嫌いな「真面目な話」です。

この悲しさを海老子に相談できないと思うと、さらに悲しくなりました。

 

仕事の手を一切止めて、考えました。

僕の人生、これからも、こういうツラいことは起きてくるはず。

でも、そういったことを海老子に相談できない。

僕の彼女は、BBQとか、旅行とか、そういった楽しいことしか頭にない。

しかも、僕と一緒にはそういったことはしたくない。

なんで?

僕がいつもこうやってくよくよ悩んでいるから?

僕がいると自由にできないから?

僕は悩んじゃダメなのか?

楽しいことしか考えちゃダメなのか?

そうしなきゃ、一緒にいたいと思ってくれないのか?

 

俺は、一緒に悩みたい。

楽しいことだけじゃなく、悲しいことも一緒に経験したい。

一緒に悲しみたい。

一緒に乗り越えたい。

 

ふと、C子のことを考えました。

「仕事のつまらないところ」を聞いてくれたC子のことを、です。

僕の仕事の話を聞いてくれたC子。

東京タワーの下で、真面目な話をたくさんしてくれたC子。

悲しそうな僕を見て、悲しく思ってくれたC子。

 

C子と過ごした時間はほんの少しでしたが、心の繋がりはすごく感じました。

同僚同士以上の何かを、深く感じていました。

また、表情の動きや、声のトーンから察して、C子もそう感じてくれているだろう、という確信がありました。

そして、この心の繋がりこそ、今の僕が欲しいものでした。

C子のことを考えると、イライラが全て消え、頭の中が綺麗になる気分になりました。

東京タワーのポーズを2人で一緒にした写真、2人で並んで話した会話、ゆったりとブランコを揺らしている時の音、ハグをした時の感覚。

1週間前の記憶が蘇り、ドキドキもしました。

 

C子と話したい。

C子に会いたい。

C子と目を合わせたい。

 

ここで突然、「お先に失礼しまーす」という声がしました。

隣に座る上司がすくっと立ち、定時ぴったりに帰りました。

僕は、頭の中で色々なことを考えすぎていたあまり、ここでやっと「あ、今会社で仕事中か」とハッとしました。

この日、仕事はたくさんありましたが、椅子にじっと座り、仕事のイライラ、海老子、C子のことを考えていたので、ほぼ何にもしませんでした。

僕の上司はいつも僕を信頼して、全然口出しをしないので、少し申し訳なくなりました。

ただ、このまま残業をする気分ではなかったので、すぐに帰りました。

 

駅に着くと、海老子が迎えに来てくれました。

「おつかれ!」と元気よく言って、僕の手をとって握りました。

最初は握り返したい気分にもなりませんでしたが、10秒後くらいに握り返しました。

そして、海老子を見て、今日の仕事のイライラを思い出しました。

頭の中は、すぐに仕事のイライラで埋め尽くされ、そして、それを話せない悲しさで、僕はうまく喋れませんでした。

 

「今日、カレー作ったんだよ!」

「ああ、まじで」

「隠し味入れておいたから!」

「へえ」

 

明らかに気が沈んでいる僕を見たからか、海老子はやたら元気そうに盛り上げようとしていましたが、それが逆に僕を悲しくさせました。

仕事のことを話したい。

けれど、ダメなんだ。

楽しくしなきゃ・・・。

そうしなきゃ海老子は・・・。

 

目の奥が熱くなり、涙が出てきました。

歩きながら、海老子の手を軽く握りながら、グスン、グスンと、泣き始めました。

1週間の忙しさで疲れていたのもあったかもしれません。

楽しく振る舞うべきなのに、悲しさがそれを上回っていて、頭がパニックになっていました。

 

老子は盛り上げようとするのを止め、黙りました。

どうしたら良いのかわからなかったのでしょう。

どうして泣いているか、手がかりすら無かったはずです。

僕も説明する気がありませんでしたし、海老子も聞こうとしませんでした。

 

アパートに着くと、海老子がイラッとした表情をしているのがわかりました。

その表情は、以前、「海老子が僕と別れてスペインのワーキングホリデーに行きたくなるんじゃないか」と、僕が不安を打ち明けた時と似ていました。

老子は「どうしたら良いかわからないんだけど」と今にも言ってきそうでした。

それを見て、僕は申し訳なくなりました。

確かにこれは僕の責任だ、と思いました。

 

「ごめん、ちょっと夕飯食べる前に走ってくる」と僕は言い、着替えて外に出ました。

走り出すと、少し頭も心もスッキリしました。

確かに、このまま泣き続けるわけにはいかない。

楽しいことをしたい海老子の前で、悲しい気持ちを持ち続けてはいけない。

思いっきり走って、思いっきり忘れよう。

そう整理をしながら、15分ほど走って、アパートに戻りました。

 

「いやー、スッキリしたわ、マジで余裕」

僕は、心の中を全部スキップして、頭に浮かんだ言葉を適当に口から出しました。

悲しい気持ちを上書きするように、押し殺すように、忘れられるように。

適当におもしろいことを言い、適当に笑い、思いっきりセックスをして、早めに寝ました。

 

次の日の朝、目を覚ますと、再び一気に悲しくなりました。

そして、C子のことを考えました。

C子に会いたい、と思いました。

その気持ちのまま、海老子の寝顔を見て、かなり申し訳なくなりました。

自分、最悪かよ、と思いました。

 

早めに起きた僕は、寝ている海老子を起こさないように静かに朝ごはんを食べ、近くのカフェに行きました。

そして、僕はひたすら、海老子とC子のことを考えていました。

朝起きて、コーヒーを飲んで、頭はスッキリしていました。

 

また、C子と話したい。

今の仕事のこととか、共有したい。

C子の目を見て、話したい。

 

C子をランチに誘おう。

それが自然だ。

東京タワーの側で歩いた時の別れ際、「ランチに行こう」と言い合ったので、極めて自然だ。

だが、付き合っている彼女がいる身で、ランチに誘うなんて、なんだか気が悪い。

でも、C子と話したい。

C子に会いたい。

C子と一緒に歩きたい。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

 

老子と別れよう。

C子と付き合えるかはわからない。

C子に嫌われるかもしれない。

C子のことをもっと知って、「あ、違うな」と思うかもしれない。

けれど、今の海老子との関係を続けるなら、一人になった方が良い。

老子にとっても、僕がいない方が、思いっきり友達と遊べるし、海外に遊びに行けるし、人生が充実するだろう。

そう、そこなんだ。

僕が何よりツラいのは、「海老子は、俺がいない方が人生を楽しめるんじゃないか」と思っているからだ。

自分が付き合っている相手が、自分と付き合っているせいで、人生の充実感がなくなっているなんて、こんなツラいことはない。

そう思うたびに、心がどよんとして、重くなる。

「海老子は、俺と付き合っていない方が良い」

老子の家族も、友達も、きっとそう思っているだろう。

僕みたいな、海老子を自由にさせてあげられない、海老子とずっと一緒にいたいと思っているような男と付き合ってからの海老子を、かわいそうに思っているだろう。

 

そう考えると、「C子と付き合いたいから別れる」じゃあない。

「C子のおかげで別れることができる」という方が正しい。

老子がフライトを変更し、それを僕に伝えていたら、同僚とのブラジル対コスタリカの観戦を予定していなかった。

きっと、ネクストリーダーミーティングが終わった後、すぐ帰っていた。

例えC子と帰り道が一緒になっても、きっと海老子の帰りを楽しみにして、アパートにパパッと帰って掃除をしたりしていた。

でも、実際には、フライト変更が伝えられずに、裏切られた感覚がして、その心の隙間を埋めるかのようにC子が現れ、C子と散歩をし、C子のことを知って、海老子との関係がいかにキツいか、気付くことができた。

 

仕事のことを気にしてくれる。

相手からハグをしてくれる。

相手から行動をとってくれる。

真面目な話を真面目にできる。

楽しませようとしなくても、一緒にいるだけで楽しい。

僕は、そういう相手とこそ、合うんだ。

 

老子とは、身体的な繋がりは感じるし、その繋がりは幸福感を与えてくれる。

けれども、僕がC子と感じるような心の繋がりはない。

きっと、身体的な繋がりによる幸福感は浅く、長続きしないのだろう。

そして、僕と海老子の関係は、身体的な繋がりのみによって成り立っている。

だからすぐに会いたくなるし、2週間も離れたら、互いに繋がっている感覚がなくなるのかもしれない。

まさに、僕たちの関係は、付き合い始める時に海老子が言っていた、「異性の友達に肉体関係をくっつけたもの」だったのだ。

老子にとって、付き合う上で、心の繋がりは不要だったのだ。

一緒にいて、一緒に楽しんで、一緒に気持ちよくなって、それで終わりだったのだ。

だから、僕が泣いている時にイラっとするし、真面目な話を避けようとする。

 

でも、僕は、心の繋がりが欲しい。

互いに想い合う繋がりが欲しい。

仕事のイライラや、ツラいこと、悲しいことを一緒に乗り越えたい。

そういうことを一緒に乗り越えて、人生を充実させたい。

自分が生きる意味を見つけたい。

僕は、そういう人間なんだ。

身体の繋がりだけではない、心の繋がりを相手に求める人間なんだ。

 

昨日、僕は海老子とセックスをした。

あれがもう無くなると思うと、キツい。

老子の熱を直接感じるあの感覚が無くなると思うと、キツい。

老子との身体的な繋がりが、引きはがすのは難しいほどに強くなっていることに気付く。

あの繋がりを無くすことを想像すると、頭が拒絶しようとしているのがわかる。

けれども、海老子と、自分が付き合っている相手と、ここまで考え方に違いがあり、心の距離があるのは、もっとキツい。

心の距離があるまま付き合い続けて、身体の繋がりを続けるよりも、別れた方がずっと良い。

 

僕は、外の空気を吸うために、カフェを出て歩き始めました。

そして、スマホを手に持ちました。

C子に「ランチに行こう」という旨のメッセージを書いて、あとは送信ボタンを押すだけでした。

でも、中々押せませんでした。

胸が鼓動を速めています。

この緊張、このワクワク。

もしかしたら断られるかもしれない。

でも、もっとC子と話したい。

こういった感情を持ってC子をランチに誘う時点で、僕と海老子の関係は終わりにすべきだ、と改めて思いました。

 

僕は、送信ボタンを押しました。

C子からすぐに返信が来ました。

「ナイスです。7月3日の火曜日はどう?」

「完ぺき!」

僕の心が、フワーッとなるのを感じました。

 

7月2日月曜日の深夜に、ワールドカップ決勝トーナメント1回戦の日本対ベルギー戦が予定されていました。

この試合は一人で観よう、と覚悟を決めました。