madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その11 - ランニングハイ

「忙しい」という言葉を、自分自身に使うのは好きじゃないです。

別に、他の人がその言葉を使うのは、どうも気になりません。

ですが、自分は、自分が「忙しい」と言って、「あ、madao、忙しいんだ」と思われるのが嫌でした。

とは言ったものの、正直、この時期は多忙でした。

年度末ということもあり、なかなか定時に帰れませんでした。

と同時に、初めて社長から直接プロジェクトを任され、これがチャンスでもありました。

なので、僕が望んでいた多忙さでもありました。


ただ、僕は、一つのことしか集中できない人間です。

仕事で多忙の時は、仕事のことしか考えられません。

そこで、仕事のこと以外をしようとすると、どうなるか。

アホになります。

「こいつバカなんじゃねえの?」という行動や言動をします。

特に、仕事帰りはそんな感じです。

「もう疲れた、誰か助けて」

そんな感じです。


僕は、海老子にメッセージを打とうとしました。

この時、「誰か助けて」と思って、真っ先に浮かぶのは、海老子でした。

自分がアホになっていて、弱くなっている姿を見せられるのは、腐っても海老子でした。

もう疲れたから、家に帰ったら海老子とひたすら抱き合っていたい・・・。

老子の温かくて柔らかい身体に埋もれていたい・・・。

そして、そのまま眠りについて、朝を迎えたい・・・。

ああ、でも、あれだ、海老子は友達やらなんやらで忙しいのか・・・。

じゃあしょうがないな・・・。

自由にさせなきゃだもんな・・・。

まあ、俺がこんな状態じゃ、海老子も一緒にいても楽しくないか・・・。

でも、こんな状態だからこそ、会いたいな・・・。


月曜から水曜、こんな精神状態、身体状態だったので、何もまともなことを考えられませんでした。

なので、水曜日の夜になって、とにかくメッセージで叫びました。

「あーーー、疲れたあああ、こんな時は、ひたすらゲームしてえええ」

アホの極みです。

少しすると、海老子が返信を寄越しました。

「よし、じゃあ、明日しよっか!」

ん?

明日?

明日と言えば、ポーランド戦がある日です。

6月28日です。

その日は、確か、海老子には予定があったはずです。

それが、セネガル戦の前にあった口論の原因の一つでもありました。

それなのに?

普段は友達を優先するのに?

それを断って、「明日ゲームをしよう」って海老子が?

あの、海老子が?

自分から、アパートに来てくれると?


僕は、何が起きているのかよく分かりませんでした。

こんな事、付き合ってから起きたことがありませんでした。

常に、僕から、「今週いつ会える?」と言って「あ、この日飲み会あるから、泊まりに行くよ」みたいな、そんな感じでした。

常に、友達の次に、僕が来ていました。

でも、今回は、疲れた僕のために、わざわざ来てくれるなんて・・・。

僕だけのために・・・。

ですが、よく考えると、海老子が、僕の「海老子は事務的で、悲しい」と言ったのをきちんと受け止めてくれている気がしました。

僕が悲しくなくなるよう、自分から行動をしようとしてくれている気がしました。

すげえ。すげえ。

何これ、超うれしい。

やっぱり、悲しいこととかは、ちゃんと正直に言ってみるものだな。

ああ、たまにはアホになっても良いんだな。

ああ、っていうか、自分がアホになっても許してくれる彼女でよかった。

おれは、ものすごく恵まれてるわ。

おれ、良い彼女を持ってるわ。

あ、それなら。

老子はまだ仕事を始めてないから、疲れた俺を気遣って、先にアパートに来ていたりして。

疲れた日、家に帰って、海老子がすでに料理を作ってくれたりしていて。

「ご飯? シャワー? それとも、私とシャワー?」とか言ってくれちゃったりして。

っていうか、ゲームって、どのゲーム?

いつもやっているテレビゲームじゃなくて、ちょっと、身体的なゲーム?

いつもは恥ずかしがりな海老子と、身体的なゲーム?

うわ、やっべー、それ、夢のようじゃん。

まさに、俺が思い描いていたことじゃああん!

そのあと、一緒にワールドカップを見るんでしょ?

すげえええ! 絶対に定時に帰る!

明日はできるだけ一緒に海老子と過ごす!

実際、最後の二行は、テンションアゲアゲのままスマホを叩いて返信しました。


そんな感じで、スヤスヤと眠った翌日、僕はウキウキのまま会社に行き、定時に仕事を終えられるよう、バリバリ仕事をしました。

この日ばかりは、社長のプロジェクトよりも、海老子の方が大事でした。

そして、いつも以上にバリバリやったため、いつも以上に脳みそを使い、いつも以上に疲れ果てて、けれどもいつも以上に充実感がある中、可能な限り一番早い時間の電車に乗りました。

そして、ウキウキのまま、「18:40に駅に着くわ!」と僕はメッセージを送りました。

すぐには返信が来なかったので、吊り革を掴んで少しウトウトしました。

ああ、帰ったらどうしよう。

早くご飯を食べたいなあ。

いや、ご飯を食べる前に・・・。

ご飯を食べる前に・・・シャワーかな・・・。

一人じゃない、シャワーかな・・・。

すると、スマートフォンが振動しました。

老子からの返信です。

「めっちゃごめん、ゲームやってたら時間過ぎてた! 今電車乗ったから、19:30に着く!」


え?

ゲームやってたから、遅れる?

仕事の残業とかならまだしょうがないけど、ゲーム?

しかも、1時間?

どういうこと?

おれは一日中楽しみにしていて、海老子は何も考えていなかった?

おれは一日中海老子と会うことばかり考えていて、海老子はゲームにめっちゃ集中していた?

僕は頭が真っ白になりました。

うまく言葉が浮かびません。

疲れているからでしょうか。

頭がうまく動かない感覚がしました。

何を言っていいか分かりませんでした。

というか、何が起きているのか理解できませんでした。


10分ほど呆然としていましたが、電車が最寄り駅に近づいてきたので、せめて返信はしようと思い、「了解!」とだけ打ちました。

それから、駅を出て、近くのスーパーに寄り、トマトと生姜と鶏肉を二人分買いました。

アパートまで、スーパーの袋を持って、歩いて帰りました。

アパートに着いて、材料を冷蔵庫に入れました。

ご飯を炊き、鍋に水とコンソメスープの素を入れました。

包丁とまな板を出し、トマトと生姜と鶏肉を切り始めました。

ネチョネチョとした鶏肉が、うまく切れませんでした。


なぜ?

なぜ?

なぜ?

一体なぜなんだ?

一体なぜ、俺は鶏肉を切っているんだ?

皮が、全然切れないじゃないか?


でも・・・。

自由、か・・・。

老子は、自由にさせなきゃだもんな・・・。

ゲームやりたい時は、やらせてあげなきゃだもんな・・・。

今日、来てくれるだけで、感謝をしなくちゃだよな・・・。


材料を切って鍋に入れ、火をつけて、やがて煮立ちました。

グツグツと煮立っている鍋の様子を見て、なぜか悲しくなりました。

自分も、こんな風に血を煮たさせて、海老子に怒りたい。

けれども、怒れない。

このタイミングで煮立つようでは、自分は海老子にふさわしい人間ではないのだ。

冷静に、広い心で、自由にさせてあげる男でなければ、こんな良い彼女にふさわしくないのだ・・・。

どんな火でも、燃えちゃダメなのだ・・・。


そろそろ時間になったので、駅に向かいました。

そして、電車がやって来ました。

老子が、電車から降りて、僕と会いました。

この時、どういうあいさつがあったか、覚えていません。

僕は、「来てくれてありがとう」と言ったのかもしれませんし、言わなかったのかもしれません。

老子は、「遅れてごめん」と言ったのかもしれませんし、言わなかったのかもしれません。

ただ、以下の会話は覚えています。

「夕飯作っておいたよ」と僕が言います。

「おお、何、何?」

「何だと思う?」

「んー、カレーかな?」

「いやー、そう来ると思ったわー、けれど、違うんだよなー」

「えー、なんだろ?」

「アパートに着くまでに当てられなかったら、一緒にシャワーね」

「えええ!」

こんな風に楽しそうに話しておきながら、僕は心の中でやたらイライラしていたのを、よく覚えています。

空腹のイライラ、海老子が遅れたことのイライラ、その両方だったのでしょう。

会話では、そのイライラが出ないように頑張っていました。

いや、むしろ、そのイライラが出てこないように、会話を繋げていました。

黙っていたら、イライラが膨張するだけでした。


そして、アパートに着きました。

僕が玄関の鍵を開けて、靴を脱ぎ、海老子が中に入って靴を脱ぎました。

それから、キスをしました。

10分くらいでしょうか、立ったままキスをしました。

ええ、10分です。

窒息死しなくて良かったくらいです。

まあ、これをキスと呼んでいいかはわかりません。

僕は、海老子を食べるようにしていました。

老子が「ちょっ!」とか、「なんで・・・」とか、「待って・・・」とか言っていましたが、全部無視して、立ったままずっと、キスをしていました。

すると、だんだんと、海老子も黙り、僕の捕食を黙って受け入れるようになりました。


帰り道のイライラが、実はムラムラだったんじゃないかと思えてきましたが、まあ、どちらでもいいです。

今となっても、この時の感情が一体なんだったのか、よくわかりません。

僕は、疲れた時に、とにかく性欲が強くなるだけなのかもしれません。

老子が1時間遅れたことにより、1時間その性欲をぶつける相手がおらず、イライラしていただけなのかもしれません。

猫の発情期みたいなものだったのかもしれません。

やがてキスが終わり、発情が少し収まったので、僕が作ったコンソメトマトチキンスープを一緒に食べました。

もちろん、発情中にパパッと作ったスープだったので、あまり美味しくありませんでした。

が、海老子は「おいしいおいしい」と言っていました。

それから一緒にシャワーを浴び、ポーランド戦まで仮眠をとりました。


さて、ポーランド戦です。

ポーランド戦も、海老子は頭を僕の膝に置いていましたが、今回は結構起きていました。

僕は地元アルビレックス新潟のファン、つまりは酒井高徳のファンなので、この日がワールドカップ初出場の彼にボールが渡る度に、「行け! 新潟の星!」と叫び、海老子を笑わせていました。

それから日本が失点し、あの噂の最後の10分に突入しました。

噂の、幼稚園児のボール回しです。

これまで積極的、攻撃的なサッカーを標榜してきた西野監督が、コロンビア対セネガルの途中経過を気にして、一切攻めないという判断をするというのが意外でした。

そして、呆れました。

これはあくまで個人の好みの話ですが、面白くないサッカーをして勝つより、面白いサッカーをして負ける方がずっとマシです。

なので、「うわー、まじかー、西野さん、まじかー」と言っていました。

何が起きているかわからない海老子に説明し、それでも海老子は分かっていないようでしたが、お互い同意していたのは、この試合、「つまんなくね?」でした。

「つまんな!」「つまんな!」

と、いうことで、コロンビア対セネガルにチャンネルを変え、「行け! セネガル! ここで点を入れたらおもしろいぞ!」と言いました。

ですが、セネガルが点を入れそうな雰囲気もありません。


両方の試合が終わった結果、日本はイエローカード数の差で、グループステージを突破しました。

が、なんだか不完全燃焼でした。

「新潟の星」酒井高徳がいなかったら、本当につまらない試合でした。

また、次の対戦相手はベルギーです。

ボコボコにやられて、無残に負けるのが目に見えていました。


とはいえ、海老子と一緒にこういったことを目撃できているのが、なんだか嬉しかったです。

いくらつまらない試合でも、海老子と一緒にそれを見ている、というのが大事でした。

やっぱり、僕はサッカーが好きなんだな。

やっぱり、僕は海老子が好きなんだな。

やっぱり、ワールドカップは楽しいな。


僕たちは布団に移動し、寝る準備をしました。

深夜だったこともあり、めちゃくちゃ眠かったです。

そして、このタイミングで、海老子は「ねえ、来週末、名古屋にBBQしに行っても良い?」と聞いてきました。

「来週末? 名古屋? ああ・・・良いよ」

「やった!」

「ちなみに、今週末は一緒にいられる?」

「うん!」

そんな会話をしてすぐ、僕たちは眠りにつきました。


スヤスヤと寝て、金曜日の朝になりました。

いつも通り、僕が先に起きて、シャワーを浴び、朝飯の準備をしました。

僕が納豆をかき混ぜている時に、ふと考え始めました。


ん? 名古屋でBBQ?

誰と? 男たちと?

まあ、どうせ昔からの友達か。

そういえば、韓国はどうなった?

っていうか、週末?

おれ、週末休みで、行けるけど、誘われない?

どうせ、「昔からの友達同士で行っておいでよ」って言うかもだけど、「madaoもどう?」がない?

まあ、いいか・・・。

自由にさせなきゃだもんな・・・。

「おれも誘ってよ、断るけど」なんて、言えないよな・・・。

っていうか・・・。

「やった!」って何?

俺が「いいよ」って言った後の「やった!」って何?

おそるおそる、俺から承認を得ようとしてたの?

いつから俺は亭主関白になったの?

あ、もしかして、「名古屋にBBQ行ってきていい?」って聞くタイミングも、めっちゃ巧みに狙っていた?

ワールドカップで新潟の星の酒井高徳が活躍して、他会場の結果を気にしたりする緊張感を楽しんで、日本がグループステージ突破して、深夜の謎の高揚感も相まって、なかなか良い気分になっている時、その時を狙って、「週末、名古屋にBBQ行ってきていい?」っていう「承認申請」を繰り出した?

なんだよ、それ・・・。

いつから、俺たちはそうなったんだよ・・・。

それこそ、事務的じゃん・・・。

おれ、上司じゃん・・・。

忙しい時期に有給申請をされる、上司じゃん・・・。

そんな関係になるつもりなかったんだけど・・・。

ショックなんですけど・・・。

このままじゃ、また玉子にぶちギレられるじゃん・・・。

「海老子、有給は社員の権利なのに、それすら申請しにくくなってるよ!」って言われるじゃん・・・。

もはや、おれ・・・。

もはや、おれ、海老子の幸せを邪魔していないか?

老子は韓国に行きたかったけど、俺が怒るから、行けない。

老子は名古屋でBBQしたいけど、俺が怒るから、おそるおそる承認申請しようとする。

そういえば、玉子は、「海老子、スペインにワーキングホリデーに行きたいって言ってたじゃん」って言ってたな。

老子はスペインに住みたいけど、俺が怒るから、行けない。

あと、男友達と二人で飲みに行きたいけど、俺が怒るから、行けない。

あと・・・。

あともっとあるんじゃないのか?

裏で、また玉子に、友達に、文句を言っているんじゃないのか?

名古屋で、友達に、「いやー、彼氏に承認とるの大変だったわー」とか、言うつもりなんじゃないのか?

そんなん・・・。

そんなの、キツいじゃん・・・。

もし、俺と付き合っているせいで海老子が楽しめないなら、キツいじゃん・・・。


気付くと、納豆がめちゃくちゃかき混ぜられていました。

その納豆と白いご飯をモグモグ食べ、スーツに着替えました。

そして、まだスヤスヤと寝ている海老子を起こさないように玄関を出て、会社に向かいました。