madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その10 - One Two Three

====あらすじ

Facebook事件とフライト変更事件でイライラ。

会社の年度末で忙しくクタクタ。

仕事の大事な会議でドキドキ。

そんな、メンタル的にせわしないmadaoの心の隙間に入り込んできたのは、かわいくて愛くるしい、赤ちゃんパンダのようなC子でした。

C子とツーショット、C子と散歩、C子とハグ。

madao、メロメロ。

 

その日は、いずれランチに行く約束をしてから別れました。

そんなC子の事を考えるヒマも無いまま、同僚とワールドカップのブラジル対コスタリカ戦の観戦になります。

そして、海老子が帰ってきます。

 

ロシアワールドカップの、ブラジル対コスタリカ戦、見ました?

ブラジルが結構攻めていて、いや、めっちゃ攻めていて、けれども、コスタリカゴールキーパー、ナバスを中心に全然ゴールを奪えなくて。

コスタリカも、ずっと守っているだけではなく、機を見て前線に攻め出してみたりして。

とはいえ、後半は、ずっとブラジルがボールを持って、パス、パス、シュート、ゴールキーパー、パス、パス、シュート、ポストに弾かれる、みたいな流れが何十分も続きました。

大根を引き抜こうとしていて、もう白い部分が見えているのに、まだ全然抜けません、あとは何が必要なんでしょうか、みたいな感じでした。

 

僕はこの時、ブラジル人とコスタリカ人がたくさんいるパブにいました。

前半こそ、両チームのチャンスごとに、どちらもうるさくしていましたが、後半は、どちらも固唾を呑む感じで、不思議な静けさがありました。

 

そして、試合は90分を迎えようとしました。

ブラジルの猛攻も虚しく、このまま終わりかと思いました。

ですが、ブラジルはもっともっと人数をかけて、もっともっと勢いをつけて、大根を必死に引き抜こうとしました。

 

ドドド

ドドドド

ドドドドド

ウォーーー!

 

ついに、ボールがネットを揺らしました。

ブラジルが、黄色いショベルカーを使って、強引に大根を引っこ抜いたようでした。

この東京のパブにいるブラジル人サポーターもそのショベルカーの地響きに連動して、歓声を響かせました。

 

ブラジルがもう一点追加して、2−0で試合が終了しました。

最後のホイッスルが鳴ってすぐ、ブラジルのエース、ネイマールが、芝生に膝をついて泣き始めました。

勝利泣きです。

一緒に見ていた同僚はネイマールのファンなので、感慨深くなっていました。

ネイマールのファンでもない僕でも、「へえ」と思いました。

判官贔屓の僕は、正直ずっとコスタリカを応援してたのですが、最終的には、勝敗云々よりも、「良いもんを見たな」という気持ちになりました。

 

帰り道、スマホを見ると、海老子が「飛行機遅れたから、到着も遅れる!」という連絡が来ていました。

どうやら、僕がアパートに帰って、駅に向かってちょうどいいくらいの時間のようです。

当初、海老子が、僕のアパートのポストに入っている鍵を使って、部屋に入っているという予定でしたが、その必要もなくなりました。

 

なんだか、全てがどうでもよくなりました。

試合を見ながら飲んでいたビールのせいでしょうか。

試合の内容がアツかったからでしょうか。

ブラジルが、最後まで必死にボールを繋ぎ、そしてハッピーエンディングのように、試合終了ギリギリに決勝ゴールが決まったからでしょうか。

大根がスポーンと抜けたような気持ち良さがあったからでしょうか。

あの英雄ネイマールが、泣き崩れたのを見たからでしょうか。

その姿を、僕が海老子と付き合い始めた日と、なぞらえてしまったからでしょうか。

告白してから、10日間ひたすら待って、目黒の花見デートでも、ずっと「付き合いたい、付き合いたい」と思っていた日と、なぞらえてしまったからでしょうか。

老子が、「よし、付き合おう」と言ってくれ、涙が出そうになった瞬間と、なぞらえてしまったからでしょうか。

いや、サッカーやらネイマールやらとは全く関係なく、なんだかんだ海老子に会えるのが、嬉しかったからでしょうか。

 

駅で待っていると、海老子が改札にやってきました。

老子は、「ああ、来てくれたんだ」と、少し驚いた感じでした。

もちろん、来るはずなのに、と、驚かれたことに驚きました。

「ハグ、しないの?」と僕が言います。

「ああ、うん」と海老子が疲れた顔で言いながら、面倒くさそうに身体を寄せてきました。

その様子を目前に、「別に、俺と会うのを楽しみにしてたわけじゃないのか」と思いましたが、長いフライトで、心身ともに疲労困憊の姿を見ると、しょうがないのかな、とも思いました。

とはいえ、アパートの中に入ると、海老子はなぜか少し元気になりました。

敷いてあった布団にすぐに飛び込み、笑顔で「つかれたあー!」と声を出したりしていました。

そこで、僕も、そこに覆いかぶさり、「おかえり」と声を出しました。

 

この時、僕の頭の中は真っ白になりました。

記憶という記憶が、全て無くなるような錯覚を覚えました。

Facebookで、海老子がハワイで出会った男2人と超近距離で写っている写真を見たこと。

帰国日が変更になったのに僕に伝え忘れ、そしてそれを悪びれもしなかったこと。

今日の夕方、ネクストリーダーミーティングの後にC子と2人で歩いて、胸をキュンキュンさせていたこと。

全て、どこかに消え去っていました。

全て、僕の心を揺さぶる、重大な出来事だったのですが、その時の感情が、全てあっという間に消え去りました。

 

そして、僕は思う存分海老子を抱き締めました。

身体全体で海老子を感じられるように。

今、目の前にいる海老子だけを感じられるように。

 

「好き」と僕はつぶやきました。

耳元で、海老子に聞こえるように、そうつぶやきました。

頭が真っ白になっている中、出てきた言葉がそれでした。

老子は何も言わずに、笑顔でキスをしてきました。

 

僕たちは、セックスをしました。

一度だけではなく、二度しました。

それから寝たんですが、朝起きてすぐ、もう一度しました。

そして、ランチを食べて、昼寝をした後に、もう一度しました。

その夜、家で夕飯を食べて、寝る前にもう一度しました。

24時間で、5回でした。

別に、回数を競うつもりはなかったんですが、海老子と話していると、海老子を見ていると、セックスのことしか考えられませんでした。

この日、土曜日、絶対セックス以外のことをしたんですが、正直なにも覚えていません。

覚えている事といえば、僕は、出来るだけ、Facebook事件や、フライト変更事件に触れないようにしていました。

そのため、ハワイのことも、あまり触れませんでした。

僕が不機嫌になるからです。

そして、不機嫌さは、セックスには必要ありませんでした。

 

日曜日になりました。

老子は、週末一切予定がないと言っていたので、アパートでゆっくり過ごしていました。

また、この日は、言わずと知れた、ロシアワールドカップのグループステージ第2戦、日本対セネガルの試合がある日です。

日付が月曜日になる、深夜12時にキックオフです。

老子がハワイに行く前に、「初戦のコロンビア戦は、海老子がまだハワイで一緒に観れないから、セネガル戦とポーランド戦は一緒に観ようね!」と言っていました。

「はいはい」と、海老子も返事をしていました。

 

昼頃になり、僕は「今日、セネガル戦楽しみだね」と言いました。

「え?」と海老子が言います。

そうか、セネガル戦のこと、覚えてなかったのか。

まあ、しょうがない、海老子は、そこまでサッカーに興味があるわけじゃないし。

「今日の深夜、ロシアワールドカップグループステージ第2戦、日本対セネガルですよ」と僕は実況者を真似した風に言いました。

すると、海老子は、「え? 私今日泊まれないよ?」と突っぱねるように言いました。

「え?」

「明日、友達の誕生日で」

「何時から集まるの?」

「13時から」

「じゃあ、良いじゃん、泊まりなよ」

「え、でも・・・」

「え、俺、海老子とワールドカップの日本戦見たい、って言ってたじゃん」

「でも、知らされてなかったし・・・」

「おっけ、具体的な時間を言っていなかったのは俺のせいだわ。だけど、今日泊まって、直接友達のところに行くのはどう?」

「うーん・・・」

「そっか・・・ごめん、俺、てっきり、セネガル戦とか関係なく泊まると思ってたから、ほら、海老子、まだ仕事見つけてないし、週末、予定無いって言ってたし」

 

空気が少しどよーんとしました。

とりわけ、僕の気持ちがどよーんとしました。

「今年のワールドカップは彼女と見る!」と決めていたため、第1戦も第2戦も逃すと思うと、少しガッカリしました。

しかし、海老子は自由にさせなきゃいけないのです。

これ以上、海老子の友達に嫌われるようなこともできません。

 

それから、一緒にゲームをしたり、街歩きをしたり、夕飯を作って食べたりして、そのガッカリさをなんとかはねのけました。

久々の海老子との週末デート、楽しかったです。

そして、お別れの時間です。

僕は、セネガル戦の前に少し仮眠をとりたかったので、夜の9時くらいに海老子を駅に送ることにしました。

いつも通り手を繋いで駅に向かって歩いている時、「あのさ」と海老子が言いました。

「なに?」

「ちょっと、1週間韓国に遊び行ってくるかも」

「へ?」

「韓国にいる友達から連絡が来て、『遊びおいでよー』って。だから、行こうかなあ、って。今、飛行機を探しているところなんだけど」

僕は、意味が分かりませんでした。

2週間ハワイ行って、それでやっとまた2人で遊べると思ったら、今度は韓国?

「日本に戻ってきたこの二日間、ちょっとつまんなかったから、また旅行に行ってくるわ」と言われているような感覚がしました。

しかも、「行ってくるかも」って言い方・・・。

僕は「おれは?」と言いました。

「え、来るの? madao、仕事忙しいんじゃないの?」

「まあ、今、めっちゃ忙しいけど・・・」

「じゃあ来れないじゃん」

「そうだけど・・・」

せめて誘ってほしかったな、と。

面倒くさい人間に聞こえるかもしれません。

ですが、僕だったら、「旅行したい!」って思ったら、必ず海老子と一緒に旅行するのを思い描きます。

たとえ状況的に難しそうでも、少なくとも海老子を誘います。

そういう考えが海老子に一切無いのが、悲しかったです。

 

ここで僕が少し黙ったので、海老子がワールドカップの話を僕に振りました。

「日本、勝てると思う?」と海老子が聞いてきます。

「あー、まあ、頑張れば勝てるよ」と僕は適当に言います。

僕は、日本のことよりも韓国のことで頭がいっぱいでした。

ですが、ワールドカップのことでハッとした僕は、ポーランド戦のことを聞きました。

「あ、ちなみに、ポーランド戦は、一緒に見れるよね?」

「え? いつ?」

「木曜日の夜」

「え? 木曜日? ムリムリ、もう約束があって」

「・・・」

僕は、嫌な気分がしました。

予定が入っていたのはまだ良いとして、「ムリムリ」という言い方が、僕を悲しくさせました。

そして、その嫌な気分に口を任せて、「そっか、まあ、いいよ、期待してなかったし」と、嫌味を込めて言いました。

まあ、良いですよ。

自由にさせたいから、良いですよ。

僕が海老子とやりたいことよりも、海老子が自分でやりたいことの方が大事なんですよ。

「・・・」

老子が、ここで黙りました。

そして、「なんか、それ、腹立つ」と静かに言いました。

「え?」

「期待してない、って、なんか腹立つ」

「え、なんで?」

「わかんないけど・・・」

僕は、意味が分かりませんでした。

「海老子は、いっつも友達を優先するじゃん。誘われたら、何も考えずにオッケー、って。だから、期待してないって、予定が空いていること」と、再び嫌味を込めて言いました。

そして・・・。

そして・・・。

忘れました。

老子がここで言ったこと、忘れました。

正直、一文字も思い出せません。

何か嫌味的な事だったのですが、内容は記憶から完全に抜け落ちています。

しかし、ここからは覚えています。

ここで、海老子がなにか嫌味を言いました。

そして、僕はあまりの怒りで、繋いでいた手を引きちぎるように離しました。

老子は、驚くでもなく、僕と同様に怒った顔で僕を見ていました。

そして、僕は、「じゃあね」と言い、Uターンをしてアパートの方向に歩き始めました。

老子も「じゃあね」と言い、駅の方向に歩き続けました。

僕は、ズンズンと力強く歩きました。

これで終わりなのかと。

彼女と見たいと思っていたロシアワールドカップ、逆にそれが原因で彼女との関係が終わるのかと。

これで、全て終わりなのかと。

そんなことを考えました。

 

ズンズン、ズンズン、と、歩くことしか考えないように、歩きました。

ネイマールのドリブルをファウルでしか止められないように、この時の僕の歩きもファウルでしか止められなかったと思います。

しかし、その怒涛の歩みも弱まり、次第にスローダウンしました。

段々と遅くなり、そして、僕は、歩道の真ん中で立ち止まりました。

そして、足を動かすよりも、頭を動かすようにしました。

そんなわけがあるのだろうか。

これで、終わるなんてことがあるのだろうか。

24時間で5回セックスしたようなあんな日は、もうやって来ないのだろうか。

あの楽しい日々。あの笑い溢れる時間。あの愛おしい感触。

それらが、これで終わるのか。

そして、僕は振り返りました。

50メートルほど向こうにいる海老子は、駅に向かってゆっくりと歩いていました。

いつも姿勢の良い海老子らしくなく、視線を落として、トボトボと歩いていました。

その後ろ姿を見て、胸が苦しくなりました。

このまま、海老子を一人で歩かせたくない。

このまま、海老子をあんな風に歩かせたくない。

 

僕は、海老子のいる方向へと歩き始めました。

出来るだけ速く、歩きました。

スタスタ、スタスタ。

今度は、怒りではなく、悲しさで歩いていました。

ですが、まさにネイマールのドリブルのように、迷いはありませんでした。

そうして、海老子に追いつきました。

「海老子」と僕は後ろから声をかけて、「ごめん」と言いました。

すると、海老子は立ち止まりました。

「うん、私も言い過ぎた。ごめん」

「いや、おれも、ごめん」

「madaoが来ないなら、駅に行ってからアパートに戻って、ピンポンダッシュするつもりだった」

「そ、そうか」

 

僕たちは、再び二人で手を繋いで、駅に向かって歩き始めました。

「でも、ほんとにね、ワールドカップ、一緒に見たかったんだ」

僕はそうポツリと言いました。

「じゃあどうするの? 見るの?」

と、海老子は立ち止まり、手の力を強め、再び少し怒ったように言いました。

「本当に見たいならそう言って。そうすれば、なんとかスケジュール合わせるから」

僕は、少し考えました。

 

この時、頭を巡ったのは、「自由」のことです。

最初に、海老子は「今日は帰りたい」と言っていました。

もっと早めに、今日のセネガル戦について言っておかなかった自分も悪いと思い始めました。

「・・・いいよ、駅に行こう」と僕は言いました。

そして、僕たちは再び歩き始めました。

ですが、その後すぐ、「よし、ワールドカップを見よう」と海老子が言いました。

「え?」

「やっぱり、アパートに戻って、ワールドカップを一緒に見よう」

「いいの? 明日の予定は・・・」

「明日の朝に帰れば間に合うから、大丈夫」

 

僕は、よく分からなくなりました。

じゃあ、なぜ、最初からそうならなかったのか?

頭の中で、回路がうまく合わさらない感覚がしました。

何も、理解できない。

何が起きているのか、よく分からない。

なんで、海老子が怒り気味なのかが分からない。

どうして、最初からセネガル戦を一緒に見ることに出来なかったのか、分からない。

自分の感情が、上下左右に揺さぶられまくったからでしょうか。

ネイマールのドリブルを受けて翻弄されるディフェンダーのように、僕自身も翻弄されていました。

 

そして、なぜか、僕は思いました。

このタイミングだ、と。

このタイミングで、今までのフラストレーションを伝えるべきだ、と。

この僕がイライラしていることを、シェアするべきだ、と。

 

「あのね、正直、言うと・・・」

僕は、少し間を空けました。

なかなか、言葉が出てこなかったです。

勇気が、出てこなかったです。

ですが、自分のためにも、言うしかありませんでした。

「ん?」

「海老子は少し事務的で、悲しい」

「・・・え?」

「こう、うまく言えないんだけど、こちらが言ったことしかやってくれない、というか・・・」

「・・・」

「ごめんね、うまく説明できなくて。でも、なんだか、付き合っている感覚がしなくて、ちょっと悲しい」

「・・・そっか」

もちろん、僕の頭には、僕にフライト変更を伝えない事件がありました。

そして、間違いなく、C子のことも頭にありました。

仕事の事とか、悩みとか、そういうのを率先して聞いてくれるC子。

2人でいる時にスマートフォンをいじるのは申し訳ないと思って、断りをいれてくれるC子。

僕の内面を知るごとに喜んでくれるC子。

僕が悲しそうにしていると、両手を広げてハグをしてくれるC子。

その一方で・・・。

老子は・・・。

 

「そっか・・・」と海老子は、悲しそうに言いました。

「悲しいのは、ダメだな・・・」と続けました。

正直、ここで、海老子が怒ってくると思いました。

ですが、海老子は、明らかに悲しそうでした。

再び、なぜここで海老子が悲しそうにするのかがわかりませんでした。

ですが、嬉しかったです。

僕が言ったことを悲しく思ってくれるだけで、十分です。

僕が悲しくて、海老子がそれを悲しんでくれるだけで、十分です。

また、今僕たちが歩いている方向は、僕のアパートです。駅ではありません。

そして、僕は、ついに念願の、「ロシアワールドカップの日本代表を彼女と見る」を達成するのです。

ゴールが決まったら、一緒に喜んだりして。

ゴールを決められたら、一緒に悲しんだりして。

不条理なジャッジに、一緒に文句を言ったりして。

面白いことがあったら、一緒に笑ったりして。

 

僕たちは仮眠を取り、キックオフの時間に起きて、一緒にセネガル戦を見ました。

川島のミスでゴールを決められ、乾が同点ゴールを決め、再び失点し、その後本田圭佑が同点ゴールを決め、2ー2で試合が終わりました。

老子は、その間、ずっと僕の膝で寝ていました。

それでも、僕は嬉しかったです。