madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その7 - ロードムービー

突然ですが、海老子と伊豆旅行に行くことになりました。

ふとした会話で、海老子が深海魚にハマっていることが判明し、「あ、深海魚水族館なるものが沼津にあるんだって!」と言ったので、僕が、「じゃあ行こうぜ!」となりました。

とはいえ、沼津に行って帰ってくるだけではもったいないので、熱海から伊豆半島を周って沼津に行こうぜ、となりました。

老子がハワイに行く最後の週末、また、海老子が短期の仕事を辞めて最初の週末ということで、二人の初旅行に行くタイミングとしては完璧と思えましたし、さらに、電話事件や箸事件を乗り越えたいのもあったので、ちょうど良かったです。

また、その時あたりに出席した結婚式で、その新夫婦の初旅行が伊豆だった、というのも頭にありました。

伊豆に行ったことはありませんでしたが、良いイメージしかまるでありませんでした。

 

老子は、仕事を辞めてすぐに、毎日友だちと飲んだり、友だちの家に泊まったりしていました。

その間、僕はせっせと一人で、この一泊二日の伊豆旅行の予定を立てていました。

新幹線のチケットをとり、レンタカーを予約し、ドライブコースを見立て、宿泊場所を決め、水族館に行った後のプランを考えました。

ぶっちゃけ、僕は、予定を決めたりするのが億劫な人間なため、また、二人で一緒に、「あれにしよー、これにしよー」とかイチャイチャしながら決めたりしたかったですが、まあしょうがなかったです。

老子は、自由にしなきゃですもんね。

友だちと飲みに行ったり、友だちの家に泊まりに行ったりしたいのなら、そうさせてあげないとダメですからね。

 

さて、当日になりました。

6月最初の週末、閑散期ということで、新幹線のグリーン車がWeb予約だと安く、せっかくなので僕はグリーン車を予約しました。

この事を海老子には伝えておらず、小さなサプライズのつもりだったんですが、海老子は一切無表情でした。

「じゃーん、グリーン車だよ?」

「ああ、うん」

グリーン車が初めてでウキウキの僕とは違い、海老子はどうやらグリーン車には何度か乗ったことがあるようでした。

 

熱海駅に着き、ニッポンレンタカープリウスを借りました。

会社の福利厚生でかなり安くなり、また、沼津での乗り捨てが無料だったので、ピッタシでした。

また、プリウスはめっちゃ静かでした。

乗り始めて10mもしないうちに、「うおおおお! めっちゃ静かああああ!」と僕は叫びました。

別にTOYOTAの宣伝とかじゃないですが、あれは感動しましたね。

「すげー!」と海老子も続きました。

グリーン車に乗ったことがあるのに、プリウスには乗ったことがないとか、海老子もまだまだだな」と僕は言いました。

 

ドライブは順調でした。

良い砂浜があったら立ち寄り、良い景色があったら立ち寄り、もちろん予定していた場所にも立ち寄りました。

運転を交代しながら、DJも交代しながら、好きな音楽を流しながら、笑いながら、信号待ちでキスをしようとしながら、でも拒まれながら、僕たちのプリウスは静かに、けれども騒がしく、伊豆半島を周っていました。

 

ですが、やがて、話すこともなくなり、プリウスと同じように静かになりました。

別に、互いに楽しくなくなった訳ではなく、コンビニに行って、トイレに行って、コーヒーを買って、ホッと一息、そんな感じでした。

僕に運転が代わり、曲がりくねった海沿いの道を走っていました。

景色が良く、「うわー、良いー」と僕がたまらず言います。

老子は黙っていたので、一体どうしたのかと思ったら、スマホを見ていました。

画面がチラッと見え、LINEで誰かとメッセージしているのがわかります。

「え?」と僕が、少しイラッとし、そして、少しバカにするように言いました。

「旅行中にスマホ、いじるの? 友だちとはいつでも話せんのに、伊豆の景色は今だけじゃね?」

文章にすると伝わりづらいですが、別にキレている訳ではありません。

あくまで、笑いを混ぜ、冗談半分でイライラを伝えた、という感じです。

老子は、最初は僕の言っている意味がわからなかったようですが、やがて納得したようで、「ゴメン」と言い、サッとスマホをポケットにしまいました。

「誰?」と僕が聞きます。聞きながら、答えは分かっていました。こんな時にも海老子がせっせとメッセージを交わすのは、一人しかいないからです。

「もしかして、玉子?」と僕が聞きます。

「・・・うん」

「玉子に、『旅行中なので邪魔しないで』ってmadaoが言っていた、って言っておいて」

「はは、わかった」

玉子とは、最初こそ距離感をかなり感じていましたが、やがて、このように海老子のLINEを介して僕が玉子と話したりすることがあり、玉子とは仲良くなっていました。

「あ、玉子から返信来たよ」と、クスリとしながら海老子が言います。

「『うるさい、madaoのくせに』だって」

「あはは」と僕は笑いました。

が、問題はこの後でした。

老子が、「ねえ、明日ってどのくらいに帰るの?」とおそるおそる聞いてきます。

「ああ・・・ええっと・・・まあ別に電車の切符買ってないし・・・って、え? なんで?」

「いや、明日の夜、玉子とご飯食べられないかな、って」

「ああ、良いよ。夜までには東京に戻るつもりだったし」

「おっけー、ありがと」

「あ、俺も行って良いんだよね?」

「あー・・・玉子に聞いてみる」

「っていうか、海老子、そのあと、ウチに泊まりに来るんだよね?」

「え? そうなの?」

「え? 違うの?」

「だって、熱海じゃん。東京までわざわざ戻らずに、海老名に帰るのが自然じゃん」

「いや、でも、海老子はもう仕事辞めたから、月曜日仕事ないし、うちに泊まりに来れるじゃん」

「んー、でも・・・」

「ちょっと待って、おれができるだけ海老子と一緒にいたいって、まだ分からないの?」

「・・・」

「せっかくの旅行じゃん。どうしても、って言うなら、海老名に戻っていいけど・・・」

「わかった、わかった、東京に帰って、玉子と一緒にご飯食べて、それでmadaoんちにとまろ、ね?」

「イエス!」

 

とはいえ、僕はなんだかモヤモヤしていました。

今となっては、そのモヤモヤが何なのかはわかるんですが、その時は分かりませんでした。

運転しながら、そのモヤモヤについてよく考え、理解し、ちゃんとした行動をとることなど、できませんでした。

外は、夕暮れが近づいてきていました。

「あのさ、付き合って2ヶ月経ったけど、どんな感じ?」と僕は聞きました。

「え? どんな感じって?」

「俺は、海老子のことをどんどん知れて嬉しいし、何より、海老子のことをどんどん好きになってるわ」

僕は、僕の気持ちをそのまま伝えるだけでした。

電話事件だったり、箸事件があったりしましたが、海老子と一緒にいる時間は何にも変えられない、という確信がありました。

横目で助手席を見ると海老子は、下を向いてニッコリとし、黙っていました。

もしかしたら爆笑したかったのかもしれないですが、ここは笑うところではないと思ったのかもしれません。

「海老子は、俺のこと好きになった?」

「え? わからない?」

「え?」

「好きじゃなかったら、旅行とか一緒に行かないでしょ」

「ああ、まあ・・・」

「madaoは、心配になりすぎだよ。安心して」

 

たしかに、この時、僕は心配でした。

そして、それが、モヤモヤの根源でした。

「もしかしたら、この旅行、楽しんでいるのは俺だけかもしれない」

「世界一周でいろんなところに行き、色んな景色を見た海老子にとって、この伊豆旅行は、ワールドカップで優勝した後にJリーグでプレーするようなものかもしれない」

「旅行のことをあまり語らずに、その後友だちと夕飯を食べに行こうとするってことは、このドライブがつまらないからかもしれない」

「というか、俺自身がつまらないかもしれない」

「俺と一緒にいるのが、楽しくないかもしれない」

「俺が海老子のことを好きなだけで、海老子はそういう気がないかもしれない」

おそらく、運転疲れのせいもあったのかもしれません。

僕は、だんだんと、ネガティブな方向に考えるようになってしまいました。

 

とはいえ、伊豆の綺麗な自然、景色も手伝い、僕のテンションは再び上がり、このあとの夕飯、宿泊、沼津での深海水族館、熱海での温泉を、十二分に楽しみました。

そして、東京に帰って、玉子に会うことになりました。

 

玉子は、機嫌がかなり悪かったです。

仕事上がりで、ひたすら愚痴を言っていました。

また、ハワイで挙式を上げる前だというのに、いや、その直前だからこそか、旦那さんのことも文句を言ったりしていました。

「式のお金は私が全部払うのは良いけど、その前のディナーとかにもお金出さないって言っててさ」

「っていうか、式だけじゃなくて、ホテル代も全部私なんだよ? 彼、貯金全然無いから、って言ってたからしょうがないと思ってたけど、別に私も貯金がたくさんあるわけじゃないし」

「今日もね、なんか、自分だけ先に起きて一人でゲームやってたし」

突っ込みどころが多すぎて、なにをどう言ったらわからなかったので、僕は何も言いませんでした。

老子は、「ねえ、結婚詐欺なんじゃないの?」と笑いました。

「本当に、そうかもね。籍を入れてすぐ、『生命保険に入ろ』って言われてさ。私、そろそろ殺されるのかも」

「付き合って3ヶ月でプロポーズされたのって、やっぱりそういうことなのかなあ」

このときは海老子も「あはは」と乾いた笑いをするだけでした。

僕も、その真似をしました。

それでも、海老子はマッコリをたくさん飲んで、楽しそうでした。

それからも、玉子がずっと喋り続けて、僕たちが聞く、という時間が続きました。

この時点で、僕たちは伊豆の話を一切していません。

玉子が、僕たちの最初の旅行のことを聞いてくることはなく、「このディナーが、この旅行の総まとめになるといいな」なんて淡い期待を抱いていた自分を呪いました。

 

そこで、海老子が席を立ちました。お手洗いのようです。

あまりおぼつかない足取りに少し心配になりましたが、そこそこしっかりした後ろ姿を見届けていると、「ねえ」と玉子が声をかけてきました。

玉子の方を見ると、鬼のような形相で、僕をにらんできていました。

「え?」と僕は驚きました。

よく考えたら、今日玉子と会って、まともに目を合わせたのは初めてでした。

「あのさ、海老子はさ、自由じゃないとダメなんだよ」

「ああ、まあ」

少し怯みながらも、僕は嫌な気分を覚えました。

あの、自由ね。

「わかってるよ、海老子の親にもそう言われた」

「旅行中だからってLINEしちゃダメとか、ありえないから!」

「いや、旅行中ずっとダメとかじゃなくて、目の前の良い景色より、いつでもできる友だちとのLINEを優先する意味がわからない、ってだけだよ」

玉子は、僕の反論が気に入らなかったからか、さらに目を見開くようにして、怒りを露わにしました。

「あのね、海老子、言ってるよ? 『男友達と会えなくて〜』って」

「いや、会ってるでしょ。海老子、酒弱いから、男と二人で飲みに行ったりするのは困るけど、飲み会とかには行ってるし」

「海老子、めっちゃ気にしているみたいで、よく弱音吐いたりしているよ?」

僕は、黙りました。

老子は、僕にそんな部分を見せたりしないからです。

もちろん、「別に男と二人で会っていいけど、ランチとかだけね。お酒はダメ」と言った時に、少し嫌そうな顔をしましたが、「おっけー、ランチなら良いんだ!」と笑顔になっていました。

というか、誰かと付き合っている時に、異性と二人でそんなに飲みに行きたくなるのは、訳が分かりませんでした。

その黙っている間、玉子は唾を飛ばすように、「海老子を自由にさせるのがいかに大切か」を次々とぶつけてきました。

「世界一周行ったりするような、自由な子なんだよ?」

「前の彼氏は、束縛で大変だったみたいだよ。それで、別れたかったみたい」

「別に付き合っているからって、独り占めできるわけじゃないんだよ?」

 

自由な子であることは知っているし、束縛しないように気をつけているし、「今何してる?」みたいな、常に海老子の行動を気にするようなことをして、独り占めとかモニタリングとかをするようなことはした事がないし、しようと思ったこともありませんでした。

ただ、あまりの勢いだったので、一体何が玉子をこんなにせき立てているのか、考えました。

老子が、本当に玉子に弱音を吐いていた?

「自由じゃなくてツラい」的なことを言っていた?

「束縛キツい?」的なことを、俺には言わずに玉子に言っていた?

すると、胸が、どよーんと暗くなるような気がしました。

それは、悲しいです。

老子が、僕について悩んでいて、それを、友だちを通して伝えられるなんて、悲しいです。

楽しんでいると思っていたのに、実は不満や悩みを持っていたなんて、それはキツいです。

また、こうも思いました。

玉子としては、海老子と二人で遊びたいのに、たくさんLINEで話したいのに、俺がすごく邪魔になっている?

だから、「自由にさせて」と言うことで、「ちょ、あんた邪魔だから」と伝えたかったのか?

そこに、海老子が帰ってきました。

僕と玉子の間にある雰囲気に異変を感じたのか、僕たちを見て不思議そうな表情をしましたが、玉子が話しかけると、すぐに笑顔に戻りました。

 

それから、僕たちは駅で玉子と別れ、二人で僕のアパートに戻り、僕たちの最初の旅行は終わりました。