madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その6 - ひびき

僕は、これまで、反省の重要さを幾度となく語ってきました。

反省したからこそ、人間は生き延びてきたのだ、と。

人間が反省しない、学習しない人間だったら、毒のある魚を食べまくって、とっくに絶滅していたでしょう。

「うわー、フグうまっ!」

「フグうめー・・・グフっ・・・なんだか、息が苦しい・・・」

「おい! 大丈夫か? よし、このフグを食べ終えてから医者に連れてくからな・・・グフっ」

と、こんな感じで、フグの毒の部分を食べまくって、とっくに絶滅していたでしょう。

でも、その代わりに、

「おい、あのフグを食うと、グフっとなって、死ぬらしいぞ」

「まじで? 美味すぎて?」

「ちがう、比喩じゃない。なんか、本気で死ぬ成分が入っているみたいだ」

「まじで? でもおれ、食ってたよ」

「どうやら、フグの一部だけに、グフってなる何かがあるみたいなんだ」

「まじで? どこら辺?」

「そこなんだよ、まだわからない。だから、ちょっとずつフグを食べてみてくれないか・・・」

「食べるかー!」

「やめろ、俺を殴るなー! ・・・グフっ」

こんな風にして、人間は成長してきたのです。

だから、反省は、大事なんですね。

 

ところが、僕が一切反省していないことがあります。

それは、箸です。

僕は、箸の持ち方が正しくありません。

子どもの頃から間違ったままです。

母親が、ありとあらゆる方法で何度も何度も直そうとしましたが、結局直らなかったです。

母は、「それだと、お嫁さんに嫌われてしまうよ」と精神的に追い詰めようともしましたが、「うちはうち、よそはよそじゃないの?」と、両親が頻繁に使っていた言い訳を返すことで、カウンターアタックに成功していました。

母親は「グフっ」と言いたかったでしょうね。

 

さて、そんなことは置いておいて、海老子の実家です。

僕と海老子は、電話でいろいろ口論をして、結局「付き合っているのが海老子でよかった」という結論に至ってねむりにつきました。

ですが、次の日に目を覚ますと、イライラだけが蘇ってきました。

「会えなくて寂しい」と言った後の「あっはっは」という爆笑が、耳から離れませんでした。

その他の会話も、思い出しては思い出しては、心がムカムカしました。

「madaoの気持ちなんかわかるわけないじゃん!」

「言ってくれれば、それをやるから!」

確かに、他の人間の気持ちなど、全部わかりません。

やってほしいことも、全てわかるわけじゃありません。

ですが、想像することに、わかろうとすることに、意義があると思うのです。

相手のことを知ろうとすることに、彼氏彼女の関係、いや、人間関係の基礎があると思うのです。

自分の中で当然と思っていたことが、海老子に覆されようとしているような気がしました。

そしてそれを、「いやいやそんなわけあるか」と、ひっくり返されるのを必死に手で抑えているような、そんな気分でした。

 

ぶっちゃけ、ここで別れを伝えるのもアリだと思ってしまいました。

老子が僕のアパートに置いている服やら下着を、全て海老子の実家まで持って行き、「じゃあね」と行って去ろうかとも思いました。

が、たかが1日の怒りでそういう行動をして、後悔してしまうのは火を見るよりも明らかです。

何より、海老子とセックスできなくなるのはきついです。

あの海老子の肌感覚を思い出して、必死に自分を引き留めました。

 

そんな心の中の戦いを一時休戦して、海老名に着きました。

天気の良い午後、海老子と駅で会い、散歩を始めました。

僕は、海老子に会うとすぐに手を繋ぎたくなり、手を差し出すんですが、この時はそれができませんでした。

純粋に、手を繋ぎたくありませんでした。

ですが、今回は海老子が手を繋ごうとしてきました。

僕の手に触れ、握ってきました。

ただ、それでも、僕は握り返す気が起きませんでした。

握り返すどころか、返事も適当でした。

 

老子が異変に気付き、真面目な話を始める・・・。

「ねえ、どうしたの?」なんて聞いてくる・・・。

「もしかして、怒ってる?」と聞いてくる・・・。

「ごめんね」と謝ってくる・・・。

 

そんなことは、起こるわけがありません。

老子は、いつも通り、喋り続けました。

そして、僕も、それに対して、ずっと冷たくもできませんでした。

 

「あっはっはっはっは」

あっという間に、手をぎゅっと握り返し、笑い溢れる、楽しい散歩が始まりました。

昨晩の悲しさ、今朝の苛立ちが風に消えてなくなるのを待つように、笑いまくりながら、たくさん歩きまくりました。

ずっと手を繋いで、海老名市の色んなところを歩きました。

 

海老名市、良いところだなあ。

駅の周りは商業施設がたくさんだけれども、ちょっと歩けば広々とした公園とか、川とか、田んぼとか、あと富士山も見えるし、良いなあ。

そして、ここで育った海老子、良いなあ。

好きだなあ。

 

あ、これ、心の声じゃありませんよ、ちなみに。

老子に言ってます。

思いあまって、めちゃめちゃキスをしたくなり、「ねえ、キスしよ」と言いますが、いつも通り「ダメ」と言われます。

「じゃあ、実家に帰ったらする?」

「馬鹿なんじゃないの? ダメに決まってんじゃん」

「じゃあ、今するしかないじゃん。誰もいないよ、ここ」

「誰もいなくても、ダメ。外じゃダメ」

「でも、誰もいないじゃん」

「それでも、ダメ。ちょっ!  ・・・んっ」

 

やがて日も暮れ、家族で食べるお好み焼きの場所まで行くことになりました。

僕たちが最初に着き、待っていると、海老子のお兄さんである海老男とその彼女、それから両親がやってきました。

総勢6人で、なんだか気恥ずかしい感じでした。

 

「海老子は、前の仕事は休みがランダムだったし、それから世界一周行ったからね。こうやって家族でご飯を食べられるのが嬉しくて」と海老子の母が、僕の目をしっかり見て言いました。

「そうだね、仕事の帰りもいつも遅かったもんな」と父が続きます。

そう面と向かって言われることで、なんだか僕が邪魔もの扱いされている気がしましたが、あまり気にしないことにしました。

 

ただ、そんなネガティブな考えが、少し行動に表れてしまいました。

お好み焼きを頼み、自分で焼いていた時です。

他の5人が見ている中、ひっくり返そうとしたんですが、べちょりと音をたて、見事に失敗しました。

ここで何が苦痛かって、全員が全員、しんとなることなんですよね。

普通に笑ってくれればいいんですが、中途半端に気を使われて、微妙な空気になってしまいました。

老子もなぜか、無表情にしていました。

 

それから、海老子の母親から、「海老子と付き合うの、大変じゃない?」と尋ねられました。

お好み焼きの失敗後だったので、質問が「madao君と付き合うの、大変じゃない?」と逆じゃなくてよかったですね。

そんなことは置いておき、僕は答えました。

「そうですね・・・以前、朝食を食べてから、僕がカフェに行ったんですよ。1時間だけ。そしてアパートに戻ったら、海老子がいなくなっていて、『え?』みたいな。スマホを見たんですが、メッセージは来てなくて。で、その後しばらく経ってから海老子から『あ、ごめん、髪切ってた』ってメッセージが来て。『いやいや、連絡しろよ!』って思いました。あはは」

この時、僕は、「いやいや、美容室に行く連絡くらいしろよ〜」という感じで、家族みんなで海老子をいじる感じになるんだろうなあ、という期待がありました。

ですが、ここで、「まあ、海老子、そんな感じだもんな」「うんうん」と、海老子を擁護する空気になり、まるで僕が悪者になったような感じがしました。

同じアパートにいる時に、外出する連絡を寄越すのを当然と思っていた僕は、ショックを受けました、

「海老子は、自由にさせないとだもんなー」と海老子の父が続けて言いました。

それはまるで、「地球は青いもんなー」「鳥は空を飛ぶもんなー」と言うかのようでした。

僕は、少し不安になりました。

老子が、空を羽ばたく鳥だとしたら、僕は、その翼をもごうとしている存在なんじゃないか、と考えてしまいました。

が、この時はそこで思考をやめました。

この場は、とにかく笑顔で乗り切らなきゃ、と必死でした。

 

お好み焼きが終了し、海老男とその彼女は離脱して、僕たちは海老子の両親の車に乗って実家に行きました。

それから、一人で風呂に入り、海老子と一緒のベッドに入って、眠りにつきました。

 

そして、朝食の時です。

前の晩の、お好み焼きの時の話になりました。

とはいえ、僕のひっくり返しの失敗の話ではありません。

海老男の彼女の話です。

「かわいかったね」と海老子が言いました。

「そうだね」と海老子の母が続きます。それから、「海老男の歴代の彼女はみんなしっかりしていて、良いよね」と、親バカだかなんだかわからないことを言いました。

というか、そもそも、海老男が彼女を作るたびに実家に連れてくることに驚きました。海老子は、彼氏を連れてくるのは僕が初めてだと言っていました。

昨日も思いましたが、兄と妹でだいぶ違うなあ、と改めて思いました。

そこで、そんな風に考えている僕に、爆弾が落ちてきました。

「海老男の彼女はさ、みんな箸の持ち方しっかりしているのよ。ほら、私、そういうの見ちゃうじゃない、つい」

僕は、口の中にある納豆を吹き出しそうになってしまいました。

白ご飯をつまんでいる僕の箸は、今、まさしく間違って握られています。

老子の母親の言い方からして、僕の間違った持ち方には気付いていないようでした。

ですが、海老子の父親は、僕の持ち方には気付いているようで、この気まずさを、笑いを、必死に抑えているようでした。

老子はというと、無表情で、気付いているかどうかわかりませんでした。

それから、海老子の母が、僕の箸の持ち方に気付いたようで、非常に気まずそうに、申し訳なさそうにし、下を向いて黙りました。

リビングの中には、TVの音声がひたすら流れました。

 

それから、僕は海老名市を離れ、一人で東京に戻りました。