madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その4 - UFO

やがて、そんな甘い日々にも、亀裂が入り始めました。

甘いケーキのスポンジに、フォークでゆっくりと亀裂を入れていくような、そんな感じでした。

まあ、甘い日々に亀裂が入り始めた、というか、僕の気持ちに亀裂が入り始めた、と言っていいかもしれません。

あ、別に、一緒にシャワーを浴びてくれないから、とか、外でキスしてくれないから、とか、ペアルックでデートしてくれないから、とか、そういう理由じゃないですよ。

ここからが、反省のメインパートになります。

どうでもよくないので、ここからはまとめず、細かくいきます。

 

5月のある日、海老子の友達と、3人で夕飯を食べることになりました。

そうですね、この子は埼玉県出身なので、玉子と呼ばせて頂きます。

玉子は、海老子とは大学時代からの友達で、二人は、親友とも呼べる存在でした。

親友であるがゆえに、6月に、玉子のハワイでの結婚式に、海老子は行く事になっていました。

2年半世界一周をして、そしてまた4ヶ月後に、ハワイに2週間行く、という、一部の人には狂気の沙汰としか思えないプランでしたが、まあ、それが海老子です。

ちなみに、海老子は、29歳です。

読んでいる方が気になっているかも、と思ったので。

僕は26歳ですね。

そのハワイのプランは、彼女が日本に帰ってきた時から決まっていたので、それが良いとか悪いとかは、僕はあまり考えませんでした。

「へえ」程度にしか思いませんでした。

ですが、それなりに心配でした。

ハワイに行っている間、寂しくなったらどうしよう、とか。

ハワイに行っている間、一体どうやって連絡を取るんだろうか、とか。

この時、ラブラブモードの絶頂というか、海老子とは常に一緒にいたくてたまりませんでした。

この日も、海老子と玉子が2人でご飯を食べる予定だったんですが、「俺も行かせて」とお願いして、「ああ、別に良いよ」となり、3人で食べる事になったのです。

 

玉子が先に居酒屋で待っていたところに、僕たちが合流しました。

「はじめましてー、madaoです」

「こんにちは」

僕は、満面の笑みであいさつをしましたが、玉子の表情は暗く、さらっと会釈をするだけでした。

僕にあまり目すら合わせようとせず、「いや、あんたのことはいいわ」と言わんばかりに、海老子とだけ話し始めました。

なに、これ、きつい。

すごい、玉子の中で、俺がいない事になっている感、きつい。

俺が何かを言っても、すごくスルーされるか、嫌そうに渋々と受け答えをされる。

なに、これ、きつい。

どうして?

おれ、何か悪いことをした?

あ、もしかして、おれが海老子と来たことを怒ってる?

老子と2人だけでご飯を食べたかった?

 

玉子は、僕の彼女の親友。

その玉子に好かれなかったら、僕と海老子の関係は終わったも同然。

玉子が、海老子に「あの、madao君、やめておいた方が良いよ」みたいに、僕に関して色々悪いことを言って、それで海老子は、「あ、確かに!」って言って、それで終わっちゃうかもしれない。

いやだー。

絶対、そうなるじゃん。

いやだよ、そんなの。

友達は、絶対に味方にしなくてはいけない。

今日のうちで、「madao君、すっごく良いね!」とは思われなくとも、「madao君、悪くないんじゃない? とりあえず、付き合っておけば?」くらいまでには持って行きたい。

じゃあ、こういう状況になったら、どうするのがベストなのか。

トイレですね。

トイレですよ。

トイレで、休憩ですよ。

トイレに行っている間、海老子が、「ちょっと、どうしたの? madaoのこと、なんか無視してない?」とか、言ってくれると良いなあー。

「ごめんね、今日連れて来ちゃって。どうしても来たい、って言ってたからさ。今日だけは、普通に接してあげて」とか、言ってくれたら感激するなあー。

それに、鏡を見たら、顔に鼻くそとか付いているかもしれないしね。

顔に鼻くそついてたら、さすがに、相手が誰だろうと、無視するからね。

と、いうことで、僕は席を立ち、トイレに来ました。

すぐ、鏡を見ましたが、僕の顔は極めて普通です。

鼻くそも何くそもありません。

もし、この顔のせいで無視されるのでしたら、僕はどうしようもありません。打つ手なしです。

それから、少し便座に座って時間をやり過ごし、席に戻りました。

すると、なんとなく、空気は暖かくなっている気がしました。

それと同時に、玉子と僕の間にある空気は、普通の初対面のぎこちなさだけになり、そして、だんだんと、それなりに会話ができるようになってきました。

やがて、玉子は、海老子が僕をいじった時とか、僕がおもしろい冗談を言った時とかに、自然に笑ってくれるようになりました。

トイレ、すげえ。

トイレの神様、ありがとう。

トイレに行ったら、全部状況が好転するなんて。

そうして、お酒が回って、海老子と玉子がたくさん喋るようになりました。

まあ、女二人の話を男の僕が遮ってもしょうがないので、僕はあまり喋らないようにしました。

よかったよかった、僕があまり邪魔になることなく、二人の会話を聞けて、そして海老子の事をより知る事ができる。

ですが、ここで、予期せぬ爆弾が落ちてきました。

 

「あ、そういえば、海老子、これからどうするの?」

「え?」

「ほら、スペインのワーキングホリデーに行きたい、って言ってたじゃん」

「あ〜・・・」

ん?

スペインのワーキングホリデー?

そんな事、聞いてないぞ?

い、行きたいの?

2年半世界一周行って、その4ヶ月後にハワイに2週間行って、それからまたスペインに行って、ワーキングホリデーに行ってくるの?

狂気の沙汰かよ。

え? また、「ごめん、ワーキングホリデー行きたいから、別れて」って言って、俺とも別れるつもりなの?

玉子が、元気そうに話を続けます。

「やっぱり、そうやって海老子は自由じゃないとね」

「あはは」

「前の彼氏は、結構キツかったでしょ?」

「ま、まあ・・・」

僕は、黙るしかありませんでした。

自分の心の暗さを、表情に出すまいと必死でした。

そうか、前の彼氏は、結構束縛してたんだな。

じゃあ、俺は、全部許さなきゃなのかな。

全部、受け入れないといけないのかな。

一切束縛しちゃあいけないんだな。

そうじゃなきゃ、また海老子にストレスを溜めさせてしまうのかな。

そうじゃなきゃ、こうやって、親友である玉子に、陰で文句を言われるのかな。

考えれば考えるほど、心が重くなっていきました。

今思えば、このタイミングで再びトイレに行けば良かったのでしょうが、その発想は出てきませんでした。

僕が頭にあったのは、この心の重さを表情には浮かべず、必死にテンションをあげて、会話に入るようにすることだけでした。

急に喋らなくなって、友達の評価を下げるのは、まずいと思ったからです。

心の重さを忘れるように、必死に喋ったりしました。

 

やがて、やっとの事で、お開きになりました。

それから、僕と海老子は僕のアパートへ帰りました。

僕らは別々にシャワーを浴びて、いつも通り向かい合って、ストレッチをしていました。
ですが、この時になって、あのスペインのワーキングホリデーのことを思い出し、僕の胸は暗く、重く感じるようになりました。

老子が色々話しかけてきましたが、僕の返答は、全て適当になっていました。

老子は、僕の返答が適当であることに気付き、黙り始めました。

このままではまずい、と僕は思います。

「あの、さ」

ですが、うまく、口に出せませんでした。

この不安を、話していいのだろうか。

この不安を話したら、嫌がれて、フラれてしまうんじゃないだろうか。

スペインのワーキングホリデーに行きたい海老子を受け入れなきゃ、フラれてしまうんじゃないだろうか。

そうしなきゃ、海老子を束縛することになってしまうんじゃないか。

頭がこんがらがり、どうしていいかわからなくなりました。

この不安を伝えたいけど、でも、伝えていいかわからない。

「ちょっと、なに?」

老子は、不思議そうに、少し苛立たしそうに、僕の目を見てきます。

そして、その僕の目は、涙を流し始めました。

「え、どうしたの?」

涙の理由を知る由もない海老子は、ものすごく困った表情をしました。

「どうして泣いているの? 話して?」

「でも、話したら嫌われる気がして・・・」

「話してくれないと、嫌いになるよ」

「わかった・・・」

それからも、口を開けるのには時間がかかりましたが、僕はゆっくりと話し始めました。

「俺、海老子がスペインのワーキングホリデーに行きたい、って思ってたの知らなくて、だから、また、元彼の時みたいに、『スペイン行くから、別れて』って言われちゃうような気がして」

「madao、それは、帰ってからすぐ玉子に会った時に言っていたことで、今は・・・そう、2、3年は日本にいようかな、って思ってるよ。私、和食好きだし。だから、安心して」

2、3年。

2、3年したら、またどこかに行ってしまうの?

そしたら、今付き合っている意味は、なんなの?

今度は、それが僕の頭の中に引っかかりました。

そして、引っかかりのせいで、僕の不安はなくなりませんでした。

「そうだよね・・・」

僕の涙は止まりましたが、モヤモヤした感じはなくならず、それは、海老子も感じ取っていました。

僕は、ひたすら下を向いて黙っていました。

「ねえ、私にどうして欲しいの? こういう真面目な話の時、どうしていいかわからないんだけど」

老子は、今まで見たことのないような、苛立ちと困惑の表情を浮かべました。

それが、僕にはショックでした。

涙が流れてきた時、なんとなく、同情してくれるような、そんな期待がありましたが、海老子は同情するどころか、どうして僕が不安がっているのか、全く理解できていないようでした。

言ってよ、言ってよ、言ってよと、プレッシャーをかけてくるだけでした。

が、そのショックは、顔に出さないようにしました。

確かに、その苛立ちと困惑は、僕のせいだな、と思いました。

こんな僕なら、「スペインに住むから別れて」とそのうち言われてもしょうがないな、と思いました。

そう思うと、さらに涙が止まらなかったので、必死にティッシュで拭きました。

「ごめん」と僕は言いました。「海老子が、日本にずっといたくなるような、そんな彼氏になるようにするわ」

老子は、笑顔になり、よくできました、と言わんばかりに、頭をなでなでとしてきました。

そして、僕は、彼女を抱き締めました。

そして、僕たちはセックスをしました。