madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

カラスとペース

週末、僕が必ずすることがある。

それは、ジョギングだ。

別に、「フルマラソンを走り切るぜ!」とか、「走行距離で世界一周するぜ!」みたいな目標があるわけではない。

ただ、走ると、体が軽くなるような、血が栄養を得たような、そんな気分になる。

そして、自分の体がいかに重だるかったかを、思い知らされることになる。

それは、久々にゆっくり睡眠をとったときや、久々においしい手料理を食べたときに感じるような、「うわ、おれ不健康だったな」みたいな感覚に似ている。

そう、僕にとってジョギングは、睡眠や食事と似ていて、それがなかったら、イライラして、発狂してしまうのだ。

普段は大人しい、優しい、面白いmadajimaさんも、週末に走らないと、些細なことでキレてしまう、とんだうざい奴になってしまうのだ。

 

ちなみに、僕の走るペースは速くない。

むしろ、かなりゆっくりなのだが、これが有酸素運動とかなんちゃらで、そこまで疲れることが無いので、良いのだと思う。

そして、僕にとって大事なのは、ペースを一定に保つことだ。

こうすることで、一定のリズムが頭に刻まれ、頭の中が整理され、何かを閃く確率も増すんだとか。

身体がスッキリすると、頭もスッキリする、ってやつ。

いや、逆か。

頭がスッキリすると、身体がスッキリする、ってやつ。

ん?

まあ、どっちでもいいか。

とにかく、ゆっくりなペースを保つことを意識しながら、僕は毎週走っている。

 

とある日曜日、僕は、いつも通り、近くの公園をぐるぐる走っていた。

都内だけれども、1周700メートルと中々広く、しかも、ランニングコースには人がそこまで多くないので、走りやすい。

ランニングコースの真ん中には、広い芝生の広場があり、そこでは、子どもや犬がせっせとボールを追っかけている。

それを見ながら走るのも、面白かったりする。

 

僕は2周目を迎えていた。

体は重さが取れ、心は気持ちよくなってきている。

ランニングハイというやつかもしれない。

そんな感じで、ちょうど角を曲がる時だった。

ビュン。

僕の目の前を、カラスが低空飛行で通り過ぎた。

「うおっ」と僕は面食らい、一瞬立ち止まる。

黒くて大きな羽をバサバサとさせる姿は、目の前で見ると、中々の迫力があった。

そして、カラスは、ドロップの缶を咥えていたことに気づいた。

カラスの知能がどんどん良くなっているのは聞いているが、ドロップの缶をとるとはすごいな、と感心した。

翼を大きく羽ばたかせながら、そのカラスは、ランニングコースから5メートルほど離れたところに置いてある、大きな岩の上に着地した。

その岩の上には、もう一匹のカラスがいて、一緒に缶を突っついたりし始めた。

 

一体、カラスはドロップの缶を開けられるのか。

一体、ドロップの缶はどうなってしまうのか。

それを見届けたい気持ちはあったが、僕は、ペースを守らなくてはならない。

ゆっくりと、粛々と走ることが、目の前の1週間の気分を大きく左右するのだ。

些細なことでキレてしまう、うざい奴にはなりたくない。

カラスごときに、構ってはいられないのだ。

 

そうして、僕は走り続けた。

カラスのことはできるだけ忘れるように、僕は頭と心を無にして、ゆっくりと、リラックスして走り続けた。

 

3周目を迎えた。

あの、カラスがいた大きな岩があるところに近づいてくると、カラスのことを考えた。

一体、カラスはドロップの缶を開けられたのか。

一体、ドロップの缶はどうなってしまったのか。

ペースが自然と速くなる。

運動から来るものではないドキドキを、胸に感じる。

 

そして、先ほどの大きな岩を見た。

すると、二匹のカラスが、まだ、岩の上でドロップの缶をいじったりしているのがわかった。

 

なんだ、いくら知能が良くなったからといって、ドロップの缶ごときに手こずっているのか。

まだまだだね、カラス。

 

いや、でも、待てよ。

これは、カラスがドロップの缶を攻略する、歴史的瞬間なのかもしれない。

ちょっと、見てみたいな。

ちょっと、近づいてみたいな。

そんな気持ちが出て来た。

 

だが、僕はペースを守らなくてはならない。

僕が公園に来ているのは、走るためなんだ。

ペースを守って、走るためなんだ。

カラスとペース、どちらが大事?

ペースなんだよ。

ペースの方が大事なんだよ。

べ、別に、カラスが怖いわけじゃないんだよ。

缶を突っついているだけのカラスなんか、別に怖くはないよ。

カラスはドロップの缶を開けられないけど、俺、開けられるし。

ただ単に、ペースを守って、走り続けたいから、カラスには近づかないんだよ。

 

そうして、僕は走り続けようとした。 

ところが、例のカラスの岩を通り過ぎてすぐ、僕は再び、黒いものとすれ違った。

カラスではない。

少年である。

夕方とはいえ、そこそこ暑いはずであるのに、この5歳くらいの少年は、黒いシャツと黒い半ズボンという、真っ黒コーディネートだった。

この黒い少年は、僕のことなどまるで気にせず、「うおおおおお!」と叫びながら、全速力で、カラスのいる岩の方向へ走っていった。

 

なぜ、少年は叫んでいるのか。

なぜ、少年は走っているのか。

なぜ、少年は黒い服装なのか。

 

僕は、考えた。 

少年は、缶をカラスに盗まれた。

少年は、缶を盗まれ怒っている。

少年は、カラスの生まれ変わり。

 

黒いカラス VS 黒い少年。

うーわ、なにこれ。

絶対、おもしろいでしょ。

少年、一体、どうなるの?

少年、怒ってるけど、どうやってカラスをとっちめるの?

ドロップの缶を取り戻せるの?

それとも、カラスが少年に勝つの?

カラスの知能は、5歳児の知能に勝るの?

 

だが、僕は、ペースを守らなくてはいけない。

僕は、次の1週間、大人しい、優しい、面白いmadajimaさんであり続けたい。

カラスと少年どころじゃあないんだ。

 

僕は、心を鬼にして、ペースを守りながら、粛々と走り続けた。

いや、別に、少年の勢いに圧倒されて、見物なんてできる感じじゃなかった、みたいな、ビビりの理由じゃないですよ?

喧嘩が始まっちゃって、いざという時に、少年をカラスから守る勇気がない、みたいな、ビビりの理由じゃないですよ?

今は、カラスよりも、ペースなんです。

ペースの方が、大事なんです。

 

ただ、こんな状況で心を無にするなんてできないので、僕は少し早めのペースで走った。

カラスがいる岩のところに辿り着くのが、楽しみで仕方がなくなった。

そして、あっという間に、カラスがいた岩の付近まで戻って来た。

 

緊張が高まる。

ドキドキ、と胸が鼓動を打っている。

それを隠すように、僕は笑っている。

興奮と不安が半分半分になっている。

 

岩がある付近に近づいてきた。

首を伸ばすように、岩を見た。

 

ああ。

いない。

カラスが、いない。

缶もない。

少年もいない。

 

しまったな。

ペースを守ることに集中し過ぎて、黒いカラスと黒い少年の、世紀の対決を見逃してしまったのか。

ペースが大事だとは思っていたが、いざカラスと黒い少年を見失うと、それを寂しがってしまった。

そして、そんな自分に、笑うしかない。

 

少し残念になりながら、僕は走り続けた。

そして少しすると、「あああああ!」という叫び声が、中央の広場から聞こえてきた。

少年である。

あの、カラスに勝負を挑んだ黒い少年が、公園中央の広場で、叫び、走り回っている。

そして、その黒い少年は、黒くなくなっていた。

裸だったのだ。

黒いシャツも脱ぎ、黒い半ズボンも脱ぎ、パンツも脱いだ状態で、走り回っている。

 

どういうこと?

一体、この一周の間に、なにが起きたの?

少年は、カラスの方まで走っていって、それで、どこがどうなったら、裸になるの?

カラスが、あの知能とくちばしで、少年のシャツとパンツを脱がしたっていうの?

ドロップの缶は開けられなかったけど、少年を裸にすることはできたの?

それとも、あの黒い少年は、ドロップの缶を奪った代償に、心の底からカラスになってしまったというの?

確かにカラスは、黒い服を着て黒いわけじゃないからね。

裸で、黒いわけだからね。

もう、心からカラスになったら、裸になって、叫び声も「あああ!」になるんだよね。

 

いや、そんなことあるかよ。

「心からカラスになる」って、なんだよ。

訳がわからなすぎる。

 

もう、ペースを守ることは、不可能だった。

粛々と、走り続けることは、できなかった。

カラスと少年で頭がいっぱいすぎて、粛々となんて、とてもできなかった。

そういうことで、僕は、走るのを諦めた。

 

公園からの帰り道を、僕は歩いていた。

歩いている間、この黒いカラスと黒い少年に関して、いろんな想像をしたりした。

すると、笑いが絶えなかった。

すれ違う歩行者に不思議に思われるほど、ニヤケ顔をしていた。

そして、あまりにニヤケていると、これが、良い感じにリフレッシュになった。

笑いは、万病の薬ってやつだなあ、と思った。

 

そういうわけで、次の1週間は、大人しい、優しい、面白いmadajimaさんとして、楽しく過ごせましたとさ。

 

めでたし、めでたし。