その1はこちら
あらすじは↓
とある日曜日の朝、いつもの様にスターバックスでブログを書いているmadajima。
だが、それを邪魔する者がいた。
襟に国連のバッジをつけた、フィリピン人のおぼっちゃまだ。
おぼっちゃまは、Wifiを繋げたくて仕方がないらしく、madajimaに助けを求めている。
巻き添えを食らった皆藤愛子似の店員さんと一緒に、おぼっちゃまを挟む様にして彼のiPhoneをWifiを繋げる様子は、まさに日本らしい「おもてなし」なのだが・・・。
「あの、もう一度、繋げてみてはどうでしょう」
皆藤愛子が、僕の目を見て、そう提案する。
「ああ、そうですね、一度WifiをOffにして・・・」と僕は応える。
おぼっちゃまは黙ったまま、分厚い手でiPhoneを持っている。
僕と店員さんが、その両側から、タップしたりスワイプしたりして、iPhoneを操作していた。
金正恩とか、絶対こんな感じだろ。
両側からマッサージをしてもらったり、体拭いてもらったり、ご飯食べさせてあげたり、Wifi繋いでもらったり、そんな感じだろ。
このおぼっちゃま、よく見たら、体型、髪型、目が、金正恩によく似ている。
フィリピンの金正恩か・・・。
だが、それを絶対に言ってはいけないな、と胸に誓う。
そんなこと言ったら、国連が、日本に不利益なことをやってきそうだし。
日本の運命は、僕が握っている。
ここでうまく「おもてなし」できたら、国連が日本に良いことをやってくれる。
そんな使命感さえ覚えた。
だが、繋がらない。
ブラウザに、「Welcome to Starbucks」みたいなのが出てこず、ずっとロードしている。
僕たちは困ったが、皆藤愛子が「開いているアプリ、全部閉じますか」と提案する。
「ああ」と僕は声を出す。
それでWifiが繋がるようになるのかは怪しかったが、もう、思いつくことは全てやるしかなかった。
皆藤愛子は、ホームボタンを2度押し、アプリを閉じる画面に遷移しようとした。
だが、おぼっちゃまがiPhoneを握っている状態では難しい。
なので、皆藤愛子はパッとおぼっちゃまからiPhoneを取り、ホームボタンを2回押して、上にスワイプしてアプリを閉じ始めた。
「あー!」
ところが、急におぼっちゃまが声を出し、皆藤愛子からiPhoneを奪い返した。
「なにすんのー!」と慌てた声で言い、iPhoneの画面を隠す様にした。
皆藤愛子と僕は思わず目を合わせた。
そして、お互いに、笑いで吹き出した。
え? どういうこと?
見られちゃいけないものがあったの?
「別に、見られたくないのがあるわけじゃないけど」
おぼっちゃまは小さな声でそう言い、自分の太い指で、一つ一つアプリを上にスワイプしていった。
それを見て、再び僕と皆藤愛子は目を見合わせた。
軽く30個くらいはアプリが開いていたのにはびっくりした。
もしかしたら、これが悪さをしているんではないか、と思って、Wifiが繋がるのを期待した。
再びWifiをOnにし、StarbucksのWifiを選択し、Safariを開いてロードが始まる。
このとき、カウンターにお客さんが何人か来ていたのがわかった。
皆藤愛子もそれに気づいたのか、「ごめん!」というポーズを、カウンターにいる店員さんに向かってしていた。
これは、かなり申し訳なくなった。
僕のブログは待てるが、お客さんは待ってくれない。
もちろん、おぼっちゃまは、そんなことを微塵にも気にしていない様だった。
だが、繋がらない。
『ロードに時間がかかり過ぎています』と画面にメッセージが出る。
「どうしましょう」と皆藤愛子は困った表情をした。「他に何かありますかね」
彼女は、困った顔はしていたが、嫌そうな顔は一切していない。
こんなおぼっちゃまのために、真面目にWifiを繋げようとしているところに、非常に好感を持った。
いい子だなあ。
まさに、スターバックスのお手本みたいな店員さんだ。
「Wifi繋げてくれないと、困るんだけど」
おぼっちゃまは、そんなのを気にせず、困った顔をする。
あまりやりたくないが、解決策は、一つある。
「あの、僕のテザリング使うんで、大丈夫ですよ。僕のスマホの電波を、彼に繋げるんで」
「ええ? それは・・・」
「いえいえ、これ以上迷惑かけるのもあれですし。戻ってもらって大丈夫ですよ」
「え、でも・・・」
「あはは、気にしないでください。余裕ですよ」
親指でグーサインを出し、僕は自分のスマートフォンをいじり始めた。
が、店員さんはレジに戻ろうとしない。立ったままである。
「いいんでしょうか?」と言いたげに、僕の目をじっと見ている。
すげえな。
偉いな。
さすが、スタバだな。
ここで、気付いた。
皆藤愛子が僕の目をじっと見ているのは、僕をお客さんと認識しているからじゃないだろうか。
スタバのエプロンを着ていない時は「皆藤愛子」だが、着た途端に「スタバの店員」になる。
そういうことか。
目をじっと見て話をする、というのは、「スタバの店員」としてやっていることなのか。
まあ、皆藤愛子が、カメラをじっと見て喋るのと一緒だ。
テレビ画面の皆藤愛子を見て、「あ、やべ、俺、皆藤愛子と恋に落ちた」と言っている様なものだ。
「皆藤愛子アナウンサー」と恋に落ちたのかもしれないが、「皆藤愛子」と恋には落ちていない、ということなのだろう。
「本当に、大丈夫ですよ。すいません、ご迷惑かけて」
僕はもう一度、言葉で背中を押す様に、店員さんに言った。
そして、申し訳なさそうに、ゆっくりと、彼女はレジカウンターに戻った。
「で、どうするの?」と言いながら、おぼっちゃまが顔を向けてきた。
続きます。