madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

スタバに現れた謎のおぼっちゃま

毎週日曜日の朝、僕は東京のとあるスタバに通っている。

もうかれこれ1年半以上、ほぼ毎週、同じ時間に行っている。

 

「え? なんで?」と思われるかもしれない。

「え? 勉強をするから?」

「え? ブログを書くから?」

「え? スタバが好きだから?」

「え? かわいい店員さんがいるから?」

全て正解である。

 

が、もう一つ理由がある。

それは、他人の会話が面白いからだ。

 

以前は、関西人の女性グループが、東京観光の予定を立てていた。

とある日は、かわいい中国人女性が、明らかにその女性を狙っている日本人男性に、超近距離で中国語を教えていた。

そういうのを聞き、僕はニヤニヤして、そしてそのニヤニヤを、必死に隠している。

 

が、今回、それを飛び越えてくることが起きた。

なんと。

話しかけられたのである。

外国人観光客に。

 

若干肌寒い朝だった。

いつも通り、客は僕を含めて数人だけである。

そして、これまたいつも通り、トイレの近くの席で僕はブログを書いていた。

 

すると、太った男性がドシドシと歩いて、トイレに入っていくのが見えた。

僕はいつも通りブログに集中していたので、それ自体は特に気にしていなかった。

 

しばらくして、その太った男性がトイレから出てきた。

そして、僕のすぐ隣にドカッ、と座り、こちらを向いた。

これは、全然いつも通りではない。

えっ、と思う隙も無いうちに「ハロー」と話しかけられた。

 

あ、英語か。

見た目は日本人じゃない。アジア系だ。

 

が、たまたま僕は英語ができるので、「ハーイ」と僕は応じる。

Wifi、繋げたいんだけど」と、太った男性は聞いてきた。

 

その1。なんで俺に聞く?

その2。なんでまず自分で試さない?

 

が、たまたま僕もノートパソコンをWifiに繋げているので、繋げ方を教えようと、彼のiPhoneの画面を見た。

そしてすぐ、「ねえねえ、充電器、持ってる?」と太った男性は聞いてきた。

 

その1。なんで俺に聞く?

その2。先にWifi繋げさせろや。

 

が、たまたま僕は充電器を持っているので、黒くて四角い充電器をバックパックから取り出して、差し出した。

「あ、ケーブル持ってる? 俺、Androidだから、iPhoneのケーブル持ってなくて」

「けーぶる?」

彼は不思議そうな顔をしていた。

あたかも、充電ケーブルの存在を知らないような反応である。

 

彼は、四角で黒い充電器とiPhoneを必死に近づけて、充電させようとした。

ケーブルが無ければ、充電器もただの黒い物体なのに、それを必死に動かして、近づけさせて、充電しようとしている。

「ねえねえ、充電できないんだけど」と太った男性が文句を言うように言ってきた。

 

その1。そりゃできないわ。

その2。今までどうやって充電してきたんだよ。

 

「ケーブル持ってないなら、充電器、自分で買うしかないね。コンビニとかで買えるんじゃない?」

「んー。何円くらい?」

「知らね。1000円くらい?」

「んーー」

 

僕は、Wifiを繋げてあげようと、彼のスマホ画面をもう一度見た。

「え、60%も残ってるじゃん。余裕でしょ」

「んー。でもね、僕、これから、あの、近くの商店街に行って、それから、11時までに六本木のホテルに戻らなきゃだから・・・」

「いや、今、8時半だし、絶対余裕でしょ。何するつもりだよ」

「んーー」

 

この際、充電はどうでもいい。とにかくWifiを繋げよう。 

僕は、iPhoneの「設定」アプリをタップし、「Wifi」を選んで、スタバのWifiを選択した。

「ちょっと経ってからブラウザをひらけば、繋がるはずだよ」と僕は伝える。

「サンキューマイフレンド」

 

はあ、全く、面白いことが起きるものだ。

それじゃあブログに戻ろうかな、と思って自分のノートパソコンに戻ろうとした時、彼のコートの襟元に、見覚えのある水色のバッジが見えた。

え? と僕は驚く。

「ちょっと待って、君、国連で働いてんの?」

え? と彼も驚く。

「ちょっと待って。なんで知ってんの?」

「いや、国連のバッジしてるじゃん」

「あ、そ、そうか」

「うーわ、君リッチボーイじゃん。充電器くらいコンビニで買いなよ」

「んーー」

 

彼の目は大きく、首もタプタプ、腹もタプタプ、おぼっちゃまとしか思えないような外見をしていて、国連で働いてんのってこんな人たちばかりなのかな、と思ってしまった。

「ちなみに、君、どこ出身?」と僕は聞いてみる。

「フィリピン」

「ああ、めっちゃ良いとこじゃん!」

すると、彼は顔の脂肪をたんまり使い、ニンマリとした。

「フィリピン、来たことあるの?」

「無いけど」

「んーー」

 

はい、国連とフィリピンの話は終了。

楽しかった、楽しかった。

と、いう事で、僕は、そろそろノートパソコンに戻ることにした。

朝はブログの時間。ちょうどいい感じに集中して書けていたんだ。

書いていた部分がどこだったか、必死に思い出しながら、キーボードを押した。

 

だが、それも束の間だった。

「ねえねえ、繋がらないんだけど」と隣から、太い指で小突かれた。

iPhoneの画面を見ると、確かに繋がっていない。

ムムム。

おかしいな、さっき、ちゃんと選んだはずだったんだけど。

 

もう一回、「設定」アプリを開いてみた。

だが、確かに、Wifiスターバックスのものに繋がっている。

「んー?」と僕は頭を傾げる。

 

すると、「店員に聞いた方が良いんじゃない?」とおぼっちゃまが言った。

「いや、ちょっと待って」と僕が言う。

ここで、店員さんに迷惑をかけるのは、なんか違う。

というか、店員さんにこの男は危険すぎる。

だが、そんな事は聞かずに、「ヘローマイフレンド!」とレジカウンターに向かって手を振った。

まじか・・・。

居酒屋じゃあるまいし、何で手を振ってスタバの店員さんを呼んでいるんだよ・・・。

っていうか、その前に何か注文しろよ・・・。

お通しとかねえんだぞ、スタバ・・・。

 

すると、かわいい店員さんが、驚きに満ちた笑顔をしながらやって来た。

皆藤愛子に似ている彼女は、目をパチクリしながら、僕とおぼっちゃまの顔を交互に見た。

そんな彼女の表情を見て、TV番組でお笑い芸人に無茶振りされて、困っている皆藤愛子を思い出した。

 

Wifiを繋げたいんだけど」とおぼっちゃまが店員さんに言う。

店員さんは「あ、ワイファイ」と小声で言い、ミルクや砂糖が置いてある台みたいなものに置いてあった、Wi-Fiガイドのパンフレットを持って来た。

あ、なんだ、そのWi-Fiガイドに、英語も中国語も韓国語も載っているのね。

なるほど、俺もそうすればよかった。

マニュアルはこのためにあるのだな、と感動し、これなら安心だな、と僕はノートパソコンに戻った。

 

が、フィリピン人の国連リッチボーイと皆藤愛子似の店員さんが隣にいるこんな状況で、ブログを再び書き始められる訳がない。

僕は右耳を必死にそば立て、右目をがっつり右に寄せて、隣の二人の様子を気にした。

どうやら、店員さんが、おぼっちゃまのスマホを覗き込んでいじっているようだった。

 

おいおい。 

結局、店員さんがやっているのかよ。

マニュアル、意味ねえじゃん。

スタバの完璧なマニュアルも、このおぼっちゃまの前では無力かよ。

っていうか、このおぼっちゃま、ひとりじゃ何もできねえの?

もしかして、着替えとか食事とかトイレも、メイドさんにやってもらってんじゃねえの?

 

「ねえねえ、充電器ある?」

店員さんがWifiを設定している中、僕に投げかけた質問を、店員さんにも投げかけていた。

店員さんは、その英語の質問が理解できなかった様で、助けを求める様に僕の方を見た。

はい、待ってましたー、と言わんばかりに、僕は二人の方を見る。

やった、このかわいい店員さんと話せるなんて。

 

「あの、彼、充電器持ってるか、聞いてるみたいです」

「え? 充電器ですか?」

「はい。ま、無いですよね・・・」

「そうですね・・・店で貸し出しはやってないですね・・・」

 

ここで僕は、皆藤愛子にじっと目を見つめられてしまい、少しドキドキしてしまう。

だが、それどころではないので、おぼっちゃまの方を向いた。

 

「無いってさ。残念だったな」と僕は嫌味を込めて言った。

「んーー。ホテルに戻るまでに、バッテリーもつかな・・・」

「あのな、60%あれば絶対もつから」

「んーー。充電器、買うとしたら、何円?」

 

まじかよ、どこまで俺を信じないんだよ、と思いながらも、僕はコンビニで充電器を買ったことがないため、店員さんを見た。

 

「あの、充電器って、コンビニで買ったら何円くらいですかね?」と僕は聞く。

「いや、分からないですね・・・私、買ったことないので」

「そうですよね・・・僕も買ったことないので。でも、どうせ1000円くらいですよね?」

「どうでしょう・・・2000円くらいするんじゃないですか?」

「あ、そんなにします?」

「どうでしょう・・・」

 

この会話中、ずっと、皆藤愛子は僕の目をじっと見てきていた。

僕も、ずっと、皆藤愛子の目を見ていた。

「・・・」の間もずっとなので、軽く15秒間は見つめ合っていた。

異性で7秒見つめ合ったら恋に落ちるらしいので、この会話の間、僕は2度も恋に落ちていたことになる。

 

「ねえ、Wifiが繋がらないんだけど」

声がした方に、僕は顔を向けた。

おぼっちゃまだ。

あ、すっかり忘れていた。

おぼっちゃまのiPhoneWifiに繋げなくてはならないんだった。

皆藤愛子との恋は、二の次だった。

ちくしょう、15秒なんて、短いなあ。

僕と皆藤愛子は、両脇からおぼっちゃまのiPhoneを覗き込んだ。

 

続きます。