その1はこちら
あらすじは↓
12月22日にバンダナの子と会ったmadajima。
クリスマスイブに誘うしかないでしょ! と思ったが、バンダナの子は、madajimaを23日と、24日午前のセミナーに誘うことしか考えていないようだった。
どうしてそこまでセミナーに来て欲しいのか。
madajimaのことが好きだから? いやいや、まさかね・・・。
23日の正午に、待ち合わせの場所に向かうと、バンダナの子とムネリンと、年上の男性2人がいた。
開場するまで、セミナーの場所の近くで、5人で話していた。
「あ〜、新潟さんが前に出るんだよね〜! 楽しみ〜」とバンダナの子は心を踊らせている。
一方、僕は、この日のバンダナの子の服装に、心を踊らせていた。
グレーの厚手のワンピースで、お腹に太いベルトを巻いているので、身体のくびれが強調されていて、良い。
自分の好きな顔のモデルさんに、自分の好きなように脂肪をつけさせてもらったら、バンダナの子になるような、そんな感じだった。
なんだか、あまり魅力が伝わっている気がしないが、そこはマジで申し訳ない。
とにかく、ピシッとした感じよりも、ちょっとふわふわ〜もちもち〜とした雰囲気、身体、顔の子が、僕は好きなのである。
自然と、話題は、次の日に迫った、クリスマスイブの予定になった。
ムネリンが、「madajimaは、誰かとデートすんの?」と聞いてくる。
いや、俺にとっては、クリスマスイブとか、1年で12番目の月の、24番目の日なだけで、24時間の時が流れることに何も変わりがない、普通の日だから、特にデートのプランとかないよ。
僕がそう言うと、ムネリンは「え、なにそれ」と反応に困ったように笑みを浮かべた。
バツが悪くなった僕は、そう言うムネリンは、誰かと過ごす予定あるの? と聞いてみる。
「いや〜・・・」とムネリンは口を濁らせる。
「どうせいないだろ」とバンダナの子が茶化すように言う。
「あ、そういえば、バンダナの子、ネイルを変えた?」とムネリンは話題を変える。
「うるせー、話題を変えるな」
「良いじゃん、かわいいじゃん。見せてよ」
「黙れ、触るな」
バンダナの子は、差し出されたムネリンの手を払った。
そして、「元彼ぶるなよ」と吐き捨てるように言った。
「関係ないだろ」とムネリンは言う。
へえ。
ここで、やっと確定した。
やっぱり、二人は元恋人同士なのね。
ムネリンはいい奴だから、納得である。
いや、むしろ、ムネリンでよかった、と思う。
「そんな事言ってねえで、バンダナの子はさっさと彼氏作れよ」と、すでに結婚している年上男性の一人が言う。
ここで、バンダナの子は、どやりとした。
「私は、彼氏作ろうと思ったらいつでも作れるので。クリスマスイブも、3人に誘われたし」
「いや、受けようかちょっと考えたのが3人だったから、実際にはもっといたけど」と付け足す。
それから、少し下を向いて、声を小さくした。
「それに、今は、良い人、いるし」
僕は胸の中にサーっと冷たい風が吹いたような、苦しい感覚がした。
そうだよな。
地球は回っていたんだよな。
僕が葬式やらインフルエンザやらで暗い日々を送っている間も、時間は平等に人に与えられていたんだよな。
そりゃあ、僕が布団の中でもがき苦しんでいる間、バンダナの子のネイルは変わるし、メイクも変わるし、「良い人」もできるよな。
そこで、バンダナの子が、チラッと僕の方を見た。
ん?
僕も、パッと、バンダナの子を見た。
すると、バンダナの子はサッと、顔の向きを話している相手の方に戻した。
ん?
なんだ? 今の。
え?
なんで?
もしかして、「良い人いるんだよね」と言った時の、俺の表情を見たかった?
めっちゃ悲しそうな表情をしている俺の顔を、見たかった?
おほほ、それ、どういうこと?
もしかして、「良い人いるんだよね」っていうのは、ウソ?
っていうか、もしや、その「良い人」っていうのは、オレ?
おっとっと、こんなことを書いたら、真剣に、俺がキチガイに見られてしまう。
こんなこと、とてもブログに書けない。
書いているけど。
さて。
そんなダベりも終わり、時間になったので、セミナー会場に入った。
今までは、セミナー会場というと、レンタル会議室みたいな、入ってせいぜい150人ほどのスペースだったが、今回は、500人は簡単に入る、文化会館みたいな場所だった。
そうか、ここで新潟さんが喋るのか。
僕は、名簿に自分の名前とバンダナの子の名前を書いて、待った。
「初めてこのセミナーに参加する人は、紹介者と一緒に、前の方の列に座れるんよ」とバンダナの子が言う。
へー。
そういう仕組みね。
席に着くと、なるほど、前から2番目の列だった。
「あ、新潟さんだ」
席に着いてすぐ、バンダナの子が、壇上に上がる新潟さんを見つけた。
「挨拶しに行こー」と、バンダナの子に連れられ、新潟さんの所に向かう。
だが、どこから湧いて来たのか、新潟さんの周りにはあっという間に輪ができており、みんながみんな、必死に新潟さんに話そうとしている。
新潟さんが見えなくなる程だった。
ああ、こういうの、かったりー。
俺は別にそこまでして、新潟さんと話したいわけじゃないんだけど。
俺、イエス・キリストの近所に住んでいたとしても、絶対キリスト教を信じなかった自信がある。
並んでまでして、囲ってまで、イエス様の話を聞きたいとか、絶対しなかったわ。
でも、バンダナの子は僕に話してもらいたいらしく、わざわざ並ぶ羽目になった。
そして、やっと僕の番になった。
新潟さんは、いつも通り、屈託のない笑顔を見せていた。
「お! madajima、めっちゃ痩せたじゃん!」
いや、インフルエンザで、ずっと寝ていたので。
「えー、そうだったの? めっちゃ顔こけているよ」
ですよねー。ちょっと食べ始めます。
「ちなみに、インフルエンザは何型だったの?」と聞いて欲しかったが、聞かれなかった。
ここで、せっかくなので、僕のゲームのアイディアを言うことにした。
新潟さん、僕、今、自己啓発ゲームを作っているんですよ。
サラリーマンクンポケットって言って、自分の選んだ選択肢によって、自分のキャリアが決まる、みたいな。
こういうセミナーとか、読書とか、そういうので僕が学んだことをゲームにしてみよう、と思っているんですね。
そうしたら、このゲームをやった人が、いつの間にか学んでいる、みたいな。
「へー、面白そうじゃん!」新潟さんは満面の笑みで言う。
「できたらやらせてよ!」
ありがとうございます! また、何かあったら、相談させてくださいね!
僕は、新潟さんを囲っている、大勢の周りの視線を気にしてしまったので、早口で話して、そそくさと輪から抜けた。
いやー、短い時間だったとはいえ、なんだかかんだ、イエス・キリストと話せて良かったな。
じゃねえや、新潟さんとだった。
なにを言っても受け入れてくれる感じがして、安心する。
「インフルエンザ、新『潟』だったんですよ〜」と言っても、爆笑してくれそうな雰囲気がある。
そりゃあ、人も集まるよな。
イエス・キリストも、こんくらい良い人だったのかな。
ありがとう、とバンダナの子に言った。
「どういたしまして」と笑顔で返してくれた。
その後も、セミナーが始まるまで、随分と時間があった。
そのため、周りの席の人たちと話したりしていた。
その中に、筋肉ムキムキの人がいて、その人は僕と同様に初参加の人だったため、少し仲良くなっていた。
腕の太さとか、大胸筋の盛り上がりとか、半端ではないので、僕とバンダナの子で、「すごい、すごい」と言いながら、触っていた。
すると、筋肉ムキムキの隣の人が、「バンダナの子の胸も触っていい?」と言い始めた。
「ダメ!」と手で胸を隠すようにして、笑顔で拒否する。
すると、男の人が2、3人、どこからかやってきて、「え? 良いの?」と、揉むような手の仕草をしながら湧いてきた。
「え? どこからやってきた?」
「バンダナの子の胸を触らせてもらえる、ということで」
「ダメなので!」
ムムム。
僕は、顔の筋肉で愛想笑いをし、心の筋肉でしかめっ面をした。
かったるいぜ、ここら辺。
どういうキャラを目指そうが、本人の勝手だが、バンダナの子には、そういうキャラでいて欲しくないなあ。
いや、冗談ってのはわかっていますよ?
でもね、周りの男に、そういう冗談を言われるような子であってほしくないんですよね。
どういうキャラを目指そうが良いですけどね、本人に任せますけどね。
嫌だねー、こういうのは。
え? 矛盾している?
ムムム。
よくわからんですよ。
バンダナの子の周りにいる人は、俺の嫌いな人が多いなあ。
バンダナの子の「良い人」ってあの中にいるのだろうか。
このコミュニティの中にいるのだろうか。
そして、俺は、バンダナの子にとってなんなのだろうか。
セミナーが始まった。
続きます。