madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

T君、お前まじで その3

これまでのあらすじ↓

オフィスを歩いているとジッと見てくる、金髪で長身の美女、セイラさん。

ジッと見られてついついドキドキしてしまう、黒髪で181センチの日本男児、madajima。

この二人が一緒にランチに行くことなど、世界の誰にも予測できなかったが、madajimaのほぼ同期であるT君と、セイラの隣に座るM子のおかげで、一緒に楽しいランチタイムを過ごすことができた。

LINEも聞いたことだし、次のステップは?

 

「どうすんの?」と聞いてきた。

もちろん、T君である。

 

僕とセイラが一緒にランチに行ってから、1週間ほど経った頃だ。

7月の青い空の下、ベンチに座って、近くのレストランで買った弁当を、T君と食べている。

とりあえず、もう一回ランチに行くよ、と僕は言った。 

「じゃあ早く誘えよ」

いやいや、間、空いてなさすぎだろ。つい先週じゃん。

「別にいいじゃん。早く誘えよ」

うるせえな、間が空いていないと誘いづらいだろ。誘う理由が無くて。

 

僕は、「合コンは短距離走、社内恋愛は長距離走」という格言を信じていた。

僕とセイラが仕事であまり関わりが無いとはいえ、うまくいかなかったら気まずくなる。

だから、あまりにグイグイ行くのも、問題だと思っていた。

 

だが、これは、若干余裕をこいていたからでもある。

まあ、大丈夫でしょ。

焦らなくても、なんとかなるでしょ。

どうせ俺たち、両想いでしょ。

そんな感覚は、少なからず、いや、結構多めにあった。

 

まあ、一応、プランはある。

「プランがあんの?」

俺のプランではね、もう一回ランチに行ってね、その時に、スクウェア・エニックスのビルの近くにある、ファイナルファンタジーカフェ的な場所の話をしてね、それで、そこに一緒に行く約束を取り付ける感じだわ。

「え? ファイナルファンタジーカフェ? そんなのあんの?」

アルトニア? みたいな名前なんだけどね。

僕はパパッとスマホで検索して、T君に見せた。

「うおーなにこれ! めっちゃすげえ!」

ポーションとかエリクサーとかあんだよね。アルコールで。

「なにお前、もう飲ませる気なの? 飲ませて何する気なの?」

別に、そういうつもりじゃねえよ。

「俺も行きたいわ、これ」

来んなよ。ん、いや、来てもいいけど。まだ二人で飲みは早い気がしたから。

「いいじゃん。誘えよ、早く」

だから、次のランチで誘うつもりなんだって。

「じゃあ、早くランチ誘えよ」

いやいや、だから言ったじゃん。先週からまだ間が空いてないから誘えないんだって。

  

言っておくが、T君はこの間ずっと、真面目である。

冗談で、同じ質問を繰り返しているわけではない。

そこが、T君がT君たる所以なのだが、真面目なのに、5分前の会話を普通に忘れてしまうものだから、会話はいつも、収拾がつかなくなる。

 

そして、事件が起きた。 

 

この日の夕方、5時ごろ、僕はいつも通り、ウォーターサーバーから水を取りに、休憩エリアまで歩いて行った。

セイラとランチに行って以来、この休憩エリアに行くまでの足取りが、より緊張さを増している。

セイラは相変わらずジッと見てくるし、僕も相変わらず、どうしたらいいかわからない。

 

だが、この日は違った。

セイラが見てくるのは変わらないが、視線の色が違ったのだ。

「ジッ」ではなく、「ギロ」だったのである。

あの大きな目で、首をしっかりと捻り、僕を殺そうとするような目をしてくる。

な、な、なんなんだ、これは。

僕はさらに緊張してしまい、スタスタと休憩エリアへの歩みを速める。

 

なんだったんだあれは、と思いながら休憩エリアに入ると、僕がそこそこ仲のいい、韓国人の女の子がいた。

この韓国人の子は、整形をしていて可愛いのだが、女にはやたら冷たいので、異性からはそこそこモテて、同性にはとことん忌み嫌われるという、そんな女の子である。

僕は、単なるかわいい韓国人の子として普通に接していたので、いつも通りに声をかけた。

 

ヤッホー、久しぶり。

「あ、久しぶりに会うね。元気?」

ウンウン、元気だよー。

 

その瞬間である。

セイラが現れた。

休憩エリアに、セイラが現れたのだ。

 

ついつい、ゴジラが来たかのような書き方をしてしまったが、その時の衝撃は、それと似ていた。

ハイヒールが床を叩きながらドシドシと音が聞こえてきそうで、殺気のようなものを感じたし、休憩エリアに入ってくる瞬間、近距離でギロっとにらまれた時には、尿意を感じてしまった。

 

今まで、セイラはデスクからジッと見てくるだけで、休憩エリアで会ったことはない。

なのに、なんで、そんなに殺気を持った時だけやって来るのか。

 

だが、僕はまだ、この可愛い韓国人の子との会話の途中である。セイラの方ばかりを気にする訳にも行かない。

ありがたい事に、韓国人の子は話を続けてくれた。 

「あれ? マスクしているけど、風邪でもひいたの?」

え、あ、まあね。

「どこが悪いの?」

あー、喉がちょっとね。くしゃみも出るし。

「本当に? 大丈夫?」

んー、まずいかも。でも、ありがとう。

 

そして、その会話の間、セイラは、ウォーターサーバーに付けられている紙コップを一つ取り、水をドバドバと入れて、僕たちの会話が終わると同時に、ドシドシと休憩エリアから出て行った。

それから、僕も、休憩エリアを出てデスクに戻った。

な、な、なんだったんだ、あれは。

ゴジラが来て、何も壊さずに帰っていった。

不気味である。

 

が、思い当たる節があったので、メールを打った。

T君に、である。

 

なあなあ、今、セイラが、俺を殺して来るような目で見て来たんだけど、なんかした?

「何それ(笑)知らないけど」

嘘だろ。

ファイナルファンタジーのカフェに誘っただけだよ」

はあああ? 何してんの? バカなの?

「madajimaと一緒に行こう、って言ったんだけどね」

 

T君、お前まじで。

僕は、とことん呆れるしかなかった。

T君が僕とのランチの会話で覚えていたのは、「ファイナルファンタジーカフェっていう、超クールなカフェがある」「そこにセイラとmadajimaが行けば、いい感じになる」「だから、俺が連れてってやる」「俺も行ってみたいし」という事くらいだったのだろう。

「madajimaが、次のランチでセイラをファイナルファンタジーカフェに誘う」とか、そういう僕のプランは抜け落ちていたに違いない。

話を聞かない、常識が通じない、記憶力の無い奴だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。

 

セイラがゴジラ並みに激怒していたのは、きっと、「T君を通して間接的に誘って来るなんて、ありえない。なんて男らしくないの」という風に考えてしまったからだろう。

「軟弱者!」と僕にビンタでも喰らわせたかったのかもしれない。

 

逆に言えば、それで激怒する、ということは、僕がセイラに気がありまくる、ってことは、すでに彼女にバレバレ、ということか。

それがわかった事が、この事件の唯一の収穫か。

 

だが、「次のランチで、ファイナルファンタジーのカフェに誘う」プランが使えなくなったのは痛い。 

それ以外、会社の外で自然に会う口実が思い浮かばない。

また、ストレートにデートに誘うには早すぎる。

あー、どうしよ。

あー、T君。

どうして君はT君なんだい。

 

いや、まあ、わかる。

T君の優しさは伝わってきてる。

T君はT君なりに、僕たちを引き寄せようとしているのである。

僕が「まだ間が空いていないから」とか余裕こいた事を言っているから、T君はなんだかモヤモヤしたのだろう。

あるいは、M子側から何か言われたのかもしれない。

それで、セイラを誘った。

だが、そのT君の行動が、かえってセイラの逆鱗に触れてしまった。

 

僕自身、T君に怒りは無い。

彼が、良かれと思ってやった事だからね。

 

が。

さて、どうしましょう。

とりあえず、間を空けてから考えよう。

 

続きます。