madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

レスター・シティがアツい

レスター・シティがアツい、アツすぎる。冬なのに。

今季プレミアリーグで快調なレスターが昨日、マンチェスター・シティと対戦した。
この試合が1位と2位の首位攻防戦になると、シーズン当初に予想した人は皆無のはずだ。
 

プレミアリーグが3試合ほど消化された9月の上旬、僕は友だちと新宿のバーで日本代表の試合を見ていた。

後半途中、白髪の老夫婦が入ってきて、僕たちのテーブルの隣に座った。
英語のアクセントからしてイギリス人だとわかったが、僕たちは試合すらそっちのけで会話に夢中になっていたため、気にはならなかった。

だが、ウェイターが老夫婦から質問を受け、英語で答えるのに困っていたため、会話を止めて「どうかしましたか?」と僕と友だちは尋ねてみた。

「うちのチームに所属している日本人は、この試合に出ているのか」とおじいさんの方が聞いてきた。「名前は、シ、オ、オ、なんだったけかな」と詰まっていたところ、「岡崎! 慎司岡崎!」と僕らは声をそろえて答えた。

「それだ!」とおじいさんは顔をほころばせる。「彼は今ピッチに出ているかい?」

「いや、先発したけど、もう交代されたみたいです」と答えると「ああ、そうか」少し残念そうな表情をしたので、僕は続けて「レスター・シティのファンですか?」と聞いた。

今度はおばあさんが会話に参加し、「そうよ。今季のホーム戦2試合とも観に行ったわ」と言う。

「えー! すごい!」

「家がスタジアムのすぐそばなのよ」

素晴らしい雰囲気のあのキングパワー・スタジアムの観衆の一部と、こうして東京で静かに日本代表の試合を観ているということが、不思議に感じられた。僕らと違い、「スタジアムでプレミアリーグを観る」というのは彼らにとって日常の一部で、特別なことではないのだろう。
「岡崎のこと、どう思いますか?」と友だちが聞いた。
「走り止まらないよね!」とおじいさんが元気に答えるので、僕らは笑う。「もうピッチのどこにでもいるし、とにかく走り回って、エネルギッシュでいいよね」とおじいさんは続けた。「名前はちょっと言いづらいけど」

それからレスター・シティについてもうちょっと会話をしたが、「リーグ優勝」なる単語は一切出てこなかった。お互い、「今年も残留できるといいね」くらいに思っていたかもしれない。

それが、今や有力な優勝候補だ。この時点で勝ち点50のクラブがチャンピオンズリーグ出場権を逃したことはないから、最終的に4位以下になってしまうと、あの老夫婦を始めとしたレスターファンは、逆にため息をつくのではないのか。
 
そんな首位攻防戦を、僕は見ていた。
開始早々、ロバート・フースがセットプレーからゴールを決め、僕はガッツポーズをしていた。キックオフしてからのエネルギー、勢いが見ているこちらに伝わってきて、応援したくなる気持ちが抑えられない。
少しオウンゴール気味だが、ボールのところに3人キッカーを置き、チョンしてからドン、を狙うように見せかけて、ニアポストでブロックしようとするシティの選手を釣り出しておき、その後ろに空いたスペースをフースだけに狙わせたという、すごく戦略的なフリーキックで、ここら辺も周到に準備してるんだな、と感心した。
今シーズンのレスターの試合は何試合か観ているけど、やはり印象は「スタメン全員がヒーロー」だということだ。みんなが本当によく走るし、守るし、ミスをカバーし合っている。
個々の技術面では、マンチェスター・シティダビド・シルバセルヒオ・アグエロよりも劣るはずだけど、レスターの選手は全員がチームメイトと一丸になって、同じ絵を心に描きながらボールを追っかけているようだった。例えるならば、綱引きで個々人がそれぞれのタイミングで綱を引くのではなく、全員でタイミングを合わせて思いっきり引いているような感じだ。
ヴァーディーを除く全員で組織的に守り、ボールを奪ったらすぐにストライカーの元へ。もしボールをキープできたらダッシュでサポート。ツートップの相方、岡崎はもちろん、中盤のマーレズ、カンテ、ドリンクウォーターも、攻めに転じた時のヴァーディーへのサポートが異常に速く、カウンターは常に数的同数とか相手より一人少ないくらいで、シュートや惜しいクロスまで持っていくチャンスが多かった。
 
岡崎について話すと、ものすごくチームメイトと息が合うようになったな、という印象を持った。
クサビのボールを受け、チームメイトにはたくときにボールロストが多かったイメージだったけど、ボールを受けてもツータッチで冷静にボールを渡せていて、おお、と感心してしまった。
そうなれば、自慢の運動量で味方にスペースを生み出すことができる岡崎は、レスターに不可欠な存在の一人、「スタメン全員がヒーロー」の一人と言っていい。後半早々の追加点は、岡崎が左サイドに全力で走っていなければ、カンテのドリブル突破やマーレズのシュートは簡単にディフェンダーにブロックされていた。岡崎がニアに走りこんでヴァーディーのクロスに合わせようとしていなければ、そこでディフェンダーは軽々とクリアしてコーナーは生まれておらず、フースのヘディングゴールも無かっただろう。
今日電車に乗っていて、車内ニュースで見出しの一つが「岡崎後半36分に退く」たったそれだけだった。文字数制限があるのはわかるが、これはかわいそうだな、と思わざるをえない。
バーであったおじいさんの言葉を借りて、「岡崎今日も走り止まらず」とか言えばいいのに。あ、でも電車だと「岡崎みたいに走り止まれず、停車駅過ぎちゃいましたー」みたいな感じで縁起が悪くてだめかな。
また、驚くのはその岡崎の移籍金がスタメンの中で一番高い、ということだ。彼の700万ポンドに比べ、ロバート・フースは300万ダニー・シンプソン200万キャスパー・シュマイケル100万、リヤド・マーレズに至っては40万だ。ラヒーム・スターリングの移籍金5000万でマーレズが125人買える、というツイッターのポストが流れてきたけど、マンチェスター・シティファンにとっては全然笑えないジョークだろう。
レスターをみんなが応援したくなる理由をさらに上げると、ロバート・フースは、モウリーニョチェルシーの監督になってから控えに甘んじ、ダニー・シンプソンとダニー・ドリンクウォーターはマンチェスター・ユナイテッドで期待されながらも放出、キャスパー・シュマイケルも下部リーグでくすぶりながら偉大な父と常に比べられてきた、といった過去の背景もあるに違いない。なかなかうまく咲かなかったつぼみが、レスター・シティという水を浴びて満開になっている気がした。ユニフォームも青だし。
それを象徴するのが、4年前は5部や6部でプレーしていたヴァーディーで、遅咲きのスターとしてEURO2016でイングランド代表として活躍することも期待されている。
 
そのヴァーディーはインタビューで「オフの時間はチームみんなでゲームしたりしてるんだ。徹夜でするときもある」ということを言っていた。チーム全体で雰囲気が良いは、試合終了後に選手がピッチから出るとき、控えの選手が思いっきり喜んだ笑顔で迎えていたことからも見える。「これが本当のチームスピリットだ」と解説も言っていた。同じ日本人の岡崎もその輪に入っていることを考えると、こちらも笑顔になってしまう。
あと13試合、これから控え選手がカギになってくるに違いない。レギュラー選手の出場停止、怪我はこの先絶対出てくるから、そこをどうするか。また、研究だってされてくるだろうから、交代選手がいかにインパクトを残せるかも重要になってくる。
そう考えると、マンチェスター・シティアーセナルトッテナム・ホットスパーの方が、優勝する確率が高いのでは、と思えてくる。選手層の厚さなどを考えると、底力があるのはその3チームの方だ。
だけど、その3チームが追いかけてくるのを気にせず、走り止まらずに駆け抜けてシーズンを終える、そんなレスター・シティを見たいと思っているサッカーファンは、僕だけではないはずだ。
そのときの電車内ニュースの見出しは、「優勝の岡崎『やっと停車できる』」みたいなのを期待する。