madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その9 − 僕らの音

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すいません、更新の間が空いてしまいました。

なので、これまでのあらすじを簡単に書きます。

 

老子と付き合い始めて2ヶ月後、海老子がハワイに旅行に行きました。

その2週間、寂しくてたまらなかったのですが、なんとか踏ん張っていました。

ですが、その2週間の間、二つの事件が起きました。

一つは、Facebook事件です。

老子がタグ付けされた写真がアップロードされました。

ハワイでできたのであろう女友達と男友達が、海老子と一緒に写真を撮っていました。

それも、その男友達は、海老子に好意があるかのように、非常に距離が近いです。

それは許せるとしても、海老子とはずっとメッセージをしていたのに、全然友達ができたことを知らされていませんでした。

隠していた? 隠したいことが起きた?

二つ目は、フライト変更事件です。

帰国日、僕のアパートに泊まりに来る事になっていたにもかかわらず、帰国日が変わったことを僕には一切伝えていませんでした。

その変更された帰国日に、僕は会社のネクストリーダーミーティング、そして同僚とワールドカップを見る予定があったので、海老子を迎えに行けませんでした。

それなのに、海老子は悪びれもせず、「え? どうするの?」というような言い方をしていました。

集配ポストに合鍵を入れることで決着しましたが、僕はイライラを収めるのがなかなかできませんでした。

 

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6月22日になりました。

今度こそ、海老子が日本に帰ってくる日です。

ポストに合鍵を入れ、僕は仕事に向かいました。

 

この日は、東京タワーの近くにあるレストランで、ネクストリーダーミーティングがあり、緊張していました。

他のネクストリーダーの面前で、僕は色々と発表しなくてはならないようです。

老子のことも考えたり、昨日の「フライト変更したんだよ?」というのを思い出してイライラしたり、もちろんそういうことも考えましたが、ぶっちゃけそれどころでもありませんでした。

ネクストリーダーミーティングで、「誰だこいつ」「なんでこんな奴が来ているんだ」「え? こいつがネクストリーダー?」とか思われそうで、ビクビクしていました。

ところがどっこい、結局は、笑い溢れる、楽しいミーティングになりました。

やっぱり、僕は不安症なんですね。

普段からきっちり仕事をやっていれば、そしてそれを見てくれている人がいれば、人脈も勝手についてくるんだな、と思いました。

ネクストリーダーミーティングが終わった後、ちょっとした晩餐会があり、それから17時くらいに解散になりました。

 

そして、女性2人と帰り道が一緒になりました。

C子と、C子のボスです。

C子は中国の子なので、C子と呼ばさせてください。

C子のボスは、そのC子のボスなので、C子のボスと呼ばさせてください。

C子とは、オフィスの中で何回か話したりしていましたが、じっくりと話す機会はありませんでした。

ああ、その印象ですか?

C子の、印象ですか?

え? 聞いていない?

別に、C子のことなんか聞いていない?

いやいや、答えさせてくださいよ。

C子の印象、それは・・・。

・・・めっちゃかわいいです。

もうね、小さくて、シャイで、垂れ目で、ボケーっとしていて、でも仕事はすんごく頑張る。

なんか、赤ちゃんパンダみたいでしょ?

小さくて、シャイで、垂れ目で、ボケーっとしていて、でもお金はすんごく稼ぐ、みたいな。

いや、これは悪い例でしたね、失礼。

でも、会社で会うたびに、胸がキュンとしていたのは感じていました。

老子と付き合い始めてからもです。

もちろん、すぐに「いやいや、海老子がいるからな」と自分の心を撫でるようにして、ノープロブレムでした。

結局は、海老子に会ったら、海老子のことばかり考えていました。

 

ですが、この日は違いました。

正直、「フライト変更を伝えない事件」で、僕の心は海老子から離れかけていました。

そして、そのタイミングで、C子と、あのC子と、ちょっと話すたびにキュンキュンしていたC子と、帰り道が一緒になったのです。

僕は、ネクストリーダーミーティングの前とは比べ物にならないほど、緊張していました。

「madaoくん、今日の発表良かったね」とC子のボスが言いました。

「いえいえ、とんでもないです」と僕が言います。

「ねえねえボス〜、なんか遊びたい気分なんですけど〜」とC子が言います。

「あー、ごめん、私は予定があるんだ。madaoくんは?」

「えっと、まあ、無いですけど。じゃあC子、ちょっと散歩する?」

「いいよ〜」

「あはは、うっそー! なんか、madaoくん、意外とノリが良いんだね」

「えー、僕、そんなにノリが悪いイメージでした?」

僕は、ニヤケ顔を隠すのに必死でした。

まあ、たしかに、普段はノリが良くないし、会社の飲み会にも行かないのですが、この時は別でした。

 

やがて、C子のボスはスマホで地図を見始めました。

「私、茅場町に行かなきゃなんだけど、どう行けば良いんだろう・・・」とC子のボスがつぶやきながら、早歩きになりました。

僕とC子が並んでいる数メートル先を、C子のボスが歩いている形です。

「ああ、じゃあ、神谷町から乗れば、日比谷線一本で着きますよ」と僕がC子のボスの背中に向かって言いました。

それから急に、「あー! 東京タワーが見える。私、東京タワー好き」とC子が言いました。

話題が急に変わったことに笑いながら、「お、本当だ。俺も好きだよ、東京タワー。あのとんがりがね」と僕が同意します。

「とんがり?」

「あ、とんがり、わからない? 意外な日本語を知らないんだね・・・とんがりは、こう、出っ張っている、っていうか」僕は言いながら、手で三角形を作りました。

「こういう感じ?」とC子が同じく手でとんがりを作ります。

「そうそう、それを頭に乗せると、東京タワーみたいに、とんがるの」

「こんな感じ?」そう言ってC子は、とんがりを自分の頭に乗せました。

「そうそう」と言って僕も、とんがりを自分の頭に乗せました。

このタイミングで、C子のボスがふと振り返って、僕たちを見てきました。

「ちょっ、2人、一体なにしてるの?」

「あ、いや、C子にとんがりを説明していて・・・」

「ちょっと、2人おもしろーい」

C子のボスは、手に持ったスマホを僕たちに向けて、写真を撮りました。

パシャりとシャッター音が鳴り、2人で東京タワーを作っている、見事なツーショットが生まれました。

「あはは、すっごい、2人ともかわい〜」と写真を見ながらC子のボスは言います。

続けて、「なんか、2人、お似合いだね」と言いました。

 

やっべ。

嬉しい。

楽しい。

たまんねえ。

 

思い出してください。

老子とのツーショットを友達に見せた時の反応は、「彼女、あんまり笑ってなくね?」でした。

ですが、C子とのツーショットを見たC子ボスの反応は、「あはは、2人ともかわい〜」「お似合いだね」です。

胸のドキドキが止まりませんでした。

「いやいや、俺には海老子が・・・」

そんなことは、考えたくありませんでした。

自分にフライトの変更すら伝えない彼女のことなど、考えたくありませんでした。

僕とC子は、ひたすら笑っていました。

そして、心の底から、これがずっと続けば良いな、と思いました。

 

駅に着き、C子のボスが「じゃあ、私はここで。2人はどうするの?」と言いました。

「あー、近くに芝公園があるので、そこまで歩こうかな、って」と僕が答えます。

「うわー、良いなあ〜。その後映画なんか行っちゃったりして!」

「あはは、映画はどうでしょう」

「じゃあ、2人で楽しんでね。おつかれ〜」

「おつかれさまでーす!」

 

そして、僕とC子は、2人で歩き始めました。

「じゃあ、芝公園まで歩いてこ。ちょっと距離あるけど、大丈夫?」

「全然いいよ。私、歩くの好き」

「ああ、良かった。俺も、歩くの好き」

そう言いながら、てくてく歩くと、途端に恥ずかしくなりました。

うわー、おれ、今C子と2人で歩いてる。

2人で、並んで歩いてる。

おれ、C子と2人で話している。

2人で、並んで話してる。

すげー!

それからすぐに、C子が「水、買わない?」と言いました。

「あ、まさに、俺もそう思った」と僕は言いました。

息が合うー!

すげー!

 

それから、話題は仕事のことにシフトしました。

「madaoさんは、仕事どうですか?」

「あ〜、良い感じだよ」

「ほんと?」

「まあ・・・ね」

「それじゃ、今の仕事で一番つまらないところはどこですか?」

「え?」

普段、社内の人と仕事の話になると、表面的な話で終わって、特に中身を聞かれることがなかったので、驚きました。

いや、社内の人とだけでなく、海老子も、一切僕の仕事について具体的なことを聞いてくることはありませんでした。

でも、C子はそんなことまで聞いてくれるんだ。

へえ、C子は、ねえ。

俺の仕事に興味を持ってくれるんだ。

ふ〜ん・・・。

僕は、感心しながら、今、僕たちのチームにある問題などを話しました。

そして、話しながら、「そういえば、こういうことを話すのって、初めてだな」と思いました。

いくら会社のことで悩もうと、会社の人に相談することはなく、ましてや海老子に話すことはありませんでした。

まあ、海老子はそういう真面目な話、嫌いですからね。

真面目に悩んでいても、馬鹿にして笑い飛ばすだけですからね。

C子は、その、海老子が嫌いそうな話を、熱心に聞いてくれました。

 

やがて、公園に着きました。

子ども連れが何組かいて、ブランコやすべり台といった遊具が置いてありました。

「あ、ブランコだ!」

「お、C子、ブランコ好き?」

「ブランコ好き!」

「おれも!」

バカみたいですが、本当にこんな感じでブランコに乗りました。

僕は、ひたすらユラユラしていましたが、C子は途中で止まり、スマホをいじり始めました。

「ごめんね、madaoさん、ちょっと仕事の確認があって・・・」

「あ、うん、全然いいよ」

あー、C子は、スマホをいじる前にちゃんと断りを入れるんだなあ。

どこかの誰かさんとは違うなあ。

だが、そこで、思い出しました。

僕も、スマホをチェックしなくてはいけないことを、思い出しました。

ブラジル対コスタリカです。

ワールドカップです。

同僚とパブで見るのです。

ですが、その同僚は、ネクストリーダーミーティングの後片付け等をしなくてはいけないので、まだ働いているはずです。

案の定、まだスマホに何のメッセージも来ていませんでした。

待ち合わせの時間等は決めていないので、なんとかなるはずです。

 

すると、ブランコの前に、子どもたちが数人、口に指をくわえて僕たちを見てきました。

明らかに、ブランコに乗りたさそうです。

プレッシャーを感じた僕は、C子に一声かけ、ブランコから離れて、再び歩き始めました。

そして、その後も話は止まりませんでした。

老子とのような馬鹿話ではなく、真面目な話が中心でした。

けれども、それがすごく楽しかったです。

互いの両親のこと、学校のこと、これからのキャリアのこと。

両親は歌手だとか、高校から中国を離れてアメリカに行ったとか、これからはずっと日本に住みたいとか、ひとつひとつC子のことを知ることが、嬉しかったです。

 

それから芝公園に着き、ベンチに座って話しているうちに、少し暗くなってきました。

すると、東京タワーがライトアップしたりして、その写真を撮ったりしました。

その写真を撮る時に、ブラジル対コスタリカを一緒に見る同僚から、「今どこ?」というメッセージが来ているのがわかりました。

やばい、そろそろ同僚と落ち合わなければ。

「実は、この後ワールドカップをパブで見るんだけど、どう?」と僕は聞いてみました。

「あ、ごめん、お母さんがこの後羽田空港に来るから、その迎えに行くんだ」

「おー、そうなんだ。じゃあ、そろそろ駅に行こうか」

と、いうことで、そこまで暗くならないうちに、僕たちは駅に向かいました。

もっと一緒にいたかったですが、互いに予定があったので、仕方がありませんでした。

 

そして、駅に向かっている途中、ふとC子が聞いてきました。

「madaoさんは、彼女いるんですか?」

「あ〜」

その話ね。

彼女の話ね。

いや、まあ、聞いてくれて嬉しいけど。

C子も、俺のことを知ろうとしてくれて嬉しいけど。

めちゃくちゃ『いない』って言いたいけど。

「いる・・・よ」

C子は、少し驚いたような声で「あ、そうなんだ」と言いました。

まあ、そうですよね。

彼女がいるのに、C子にめっちゃ興味がある感じで話していますからね。

彼女がいるのに、「芝公園まで一緒に歩かない?」とか言っていますからね。

彼女がいるのに、東京タワーのポーズでツーショットを撮っていますからね。

「まあ、でも、最近、彼女とはちょっと色々あってね」

「え? どうしたの?」

「その、まあ・・・問題があって」

「なになに?」

この時、海老子との色んなことが頭を駆け巡りました。

全て、ネガティブなやつです。

真面目な話が嫌い事件、電話で笑い飛ばされた事件、箸の持ち方事件、写真で一切笑っていない事件、帰国日変更を伝えない事件、全てが一気に押し寄せてきました。

が、駅がすぐそこに近づいている今、必要なのはそういうひとつひとつの事件ではありません。

まとめです。

今までのことをまとめた、端的かつシンプルな説明です。

そして、まとめると、次のことに集約される気がしました。

「彼女、全然『好き』って言わないんだよね。そして多分、そう思ってくれてない」

「う〜〜〜」

C子は、可哀想な子犬を見るような目で僕の目を見てきました。

そして、C子は両手を広げてくれました。

僕は子犬、C子は人間。

僕は、ほとんどの子犬がそうするように、力なくC子に寄りかかり、ハグをしました。

そのハグが、心に沁みました。

C子の小さい身体の中にある広い心が、僕の心に伝わりました。

 

それから、駅で別れました。

「今度、ランチ行こう」と言い合いました。

最後まで目を合わせて、別れました。

 

やっべ、なんだろ、このドキドキ。

おれ、C子のことばっかり考えてる。

C子とまた会いたい、って思ってる。

C子とまた話したい、って思ってる。

 

ですが、ありがたいことに、この後にワールドカップがありました。

そして、ありがたいかどうかは分かりませんが、海老子が日本に帰ってきました。