madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

恋愛反省文 その13 - ファスナー

「え? 別れるの?」と言ってきました。

僕の友達、F君です。

フランス人の気性を持った典型的なフランス人なので、F君とさせてください。

「まだ3ヶ月だろ? やめた方がいいよ」

「なんで?」

「だって、C子がお前のこと好きって決まっているわけじゃないだろ。一回散歩をして、まだランチすら行ってなくて、それだけで判断するの、やめろよ」

「まあ・・・」

「もう1ヶ月、我慢しなよ。その間、C子がどんな感じか様子を見て、そこから別れろよ」

「う、うう・・・」

僕たちは、とある居酒屋で飲んでいました。

土曜日の夜、海老子が友達の家に誕生日を祝いに行くと言うので、僕はF君と飲むことにしました。

また友達の誕生日かよ、と思いましたが、友達が多い海老子なので、そういうもんです。

1年は、365日しかないですからね。

365人友達がいたら、毎日友達の誕生日です。


また、ポーランド戦後の「今週末は一緒にいられるよね?」「うん!」も、実は嘘だったことに気付きましたが、まあ気にしないことにしました。

僕も、この日ばかりは、海老子と一緒にいたいよりも、海老子とC子のことを誰かに相談したい気分でした。

あ、そうそう、あの、海老子がハワイに行って、僕が友達と飲みに行って、僕と海老子のツーショットを見せて「彼女、笑ってなくね?」って言われた話、あったじゃないですか。

あれも、F君です。

再登場させる気が無かったので名前をつけていませんでしたが、ここで名前をあげたいと思います。

僕たちは、互いにとっての相談相手でした。


「いや、あと1ヶ月はキツいって。C子を抜きにしても、これ以上海老子といたら、精神がもたない」と、僕は顔をうつむかせてそう言いました。

「そうか、そこまでか」

「ただ、セックスできないのはツラい」

「そ、そうか」

「ただ、セックスのためだけに付き合うのはもっとツラい」

「ま、まあな」

F君は気まずそうに話していましたが、気にしませんでした。

「そして、付き合いながら、他の人にアプローチするのは、もっとツラい」

「・・・そうだな」

「うん・・・」

F君は上を向き、深呼吸をするようにしてから、「いや、正しいよ」と言いました。

「え?」

「忘れてくれ。俺が言ったことは忘れてくれ。いや、正しいよ、それが。二匹のウサギを同時に追いかけたら、どちらも捕まえられない」

「うん。まさに、それ」


暗い話題はそれくらいで終わりにし、話はワールドカップに移りました。

「日本とベルギー、どっちが勝つと思う?」と、F君が聞いてきました。

F君はサッカーに一切興味がないですが、ワールドカップの時だけは興味を示すタイプです。

「ベルギーが勝つと思う。たぶん3-0くらい」

「え、そうなの?」

「ベルギー、強いよ。めっちゃ」

「そうなの?」

ルカクとか、アザールとか、デ・ブルイネとか」

「全然知らない」

「まじかー。まあとにかく、めっちゃ強いよ」

ここで、僕はふと気付きました。

「そういえば、F君、フェライニにめっちゃ似てない?」

「誰?」

フェライニ。まあ、知らないか。あの、アフロ頭の」

「おれ、アフロじゃないけど」

「でも、顔がめっちゃ似てる。目とか、眉とか、彫りとか、ヒゲとか。あ、もしかして・・・F君、身長何センチ?」

「・・・194」

「うわ、フェライニと一緒じゃん!」

「あ、そ」

「日本相手にゴールを決めないでね」

「ベストを尽くすよ」

それから、その夜にキックオフのフランス対アルゼンチン戦の話を少しして、でも大して盛り上がらず、「フランス、勝つと良いね」「C子とのランチ、どうなったか教えてね」と言い合って、お開きにしました。


日曜日になりました。

月曜日の深夜は日本対ベルギー戦があり、その火曜日はC子とのランチです。

その前に別れたいのなら、今日のどこかで言わなければいけません。

ですが、この日は、昨日のアルコールが残っていたからか、何にもやる気が起きませんでした。

身体がかったるくて仕方がありませんでした。


いつも通り、海老子とゲームをしたり、昼寝をしたりしました。

夕方になると、ようやく身体の調子が出てきたので、僕は筋トレを始めました。

筋トレ、と言っても、腕立て伏せ、腹筋、背筋くらいです。

その間、海老子はずっとスマホをいじっていました。

うんせ、うんせ、こらせ、こらせ、と荒い息を出しながら筋トレが終わると、スッキリした気分になりました。

僕は、「終わったー、腹減ったー!」と叫びました。

「おおー!」と海老子も言います。

時間は5時半。夕飯を支度するにはちょうどいいです。

お昼に買い物を済ませていたので、海老子と一緒に料理をしようかな、と思いました。

そのため、僕が「一緒に夕飯作ろうぜー」と言おうとしました。

すると、海老子が「よし、走ってくる!」と言いました。

「え?」

僕は驚きました。

今、俺「お腹減った」って言ったじゃん。

つまり「食べようぜ」ってことじゃん。

なのに、そこで走りに行くの?

まあ、走りに行きたくなる気分はわからない訳でもない。

俺が筋トレしていることに、インスパイアされたのかもしれない。

ただ、今?

老子は起き上がり、着替え始めました。

女性のあのランニング用のスパッツが好きで、海老子のスパッツ姿も大好きでしたが、この時ばかりは、それどころではありませんでした。

なんで今行くの?

俺に料理を作っておけ、ってこと?

腹減ったなら、海老子の分も含めて作っておけ、ってこと?


老子が颯爽と玄関から出て行ったのを見て、僕はシャワーを浴びました。

そして、髪を乾かしてから、料理をし始めました。

ほうれん草とモロヘイヤと豚肉です。

モロヘイヤを料理するのは初めてだったので、てっきり海老子が手伝ってくれるものだと思っていました。

が、僕がセンスでやるしかありません。

一人っきりで。

老子の分も。

走っている、海老子のためにも。

僕が筋トレしている時にスマホをいじっていた、海老子のためにも。


僕は、まな板の上で、ほうれん草を切りました。

僕は、まな板の上で、モロヘイヤを切りました。

僕は、まな板の上で、豚肉を細かく切りました。


やっべ、イライラする。

現在、無職の海老子

木曜日、ゲームをしていた海老子は、遅刻をして、料理をしたのは、定時に帰るためにせっせと仕事をしていた僕。

そして今日、「走ってくるから、その間夕飯を作っておいて!」と言わんばかりに海老子がアパートを出て行き、料理をしたのは、筋トレ後でクタクタになっている僕。

空腹も相まって、僕はイライラし始めました。

なんで俺が一人で料理しているの。

不公平じゃね。

二人で一緒ならまだしも、なんで俺が、無職の海老子のためにここまで働くの。

どうして1週間働いていた俺が、1週間ゲームばかりしていた海老子のために、疲れている体を押して、ここまで家事をしているんだ。

どうして俺が・・・。


老子が帰ってきました。

「お帰り」と僕は笑顔で言いました。

ネチョネチョの豚肉と格闘している両手を切り離すようにし、笑顔をつくりました。

靴を脱いだ海老子は「シャワー浴びるね」と言いました。

僕は「おっけ! シャワーからあがったら、食べられると思う」と元気に言いました。


シャワーからお湯が出る音が聞こえると、僕は再びイライラし始めました。

俺は、別れるんだ。

俺は、海老子と別れるんだ。

だから、笑顔はダメだ。

きっと、この身体の繋がりが、セックスを欲しがっているこの身体が、無理やり笑顔を作っている。

でも、ダメだ。

きちんと伝えよう。

もう付き合っていたくない。

一緒にいたくない。

セックスしたく・・・ない。


豚肉との格闘を終え、僕はほうれん草、モロヘイヤ、豚肉をまとめて煮始めました。

すると、海老子がシャワーから出てきました。

相変わらずのナイスボディで、反射的にデレっとしてしまいますが、すぐにイライラを思い出します。

僕は笑顔をやめ、まな板や包丁を洗いながら、海老子が服を着るのを待ちました。

そして、着替えが終わったようだったので、僕は包丁をしまいながら、口を開きました。

「あのさ」

「ん?」

老子は、シャワーを浴びた後だから、気持ち良さそうにしています。

「海老子にとって、この関係って、どうなの?」

「え?」


換気扇がブワーッと音を鳴らしています。

鍋は、まだ煮立っていません。


「俺と付き合う前、目黒で花見をした時、『付き合うって、友達に肉体関係をくっつけたもの』って言ってたじゃん。今も、海老子はそう思っているのかな、って」

「え?」

「俺との関係と、セフレの関係、どう違うのかな、って」

僕は、自分の気持ちを、自分の考えていることを、言葉にうまくできませんでした。

ハッキリとこういったことを聞くのが、少し怖かったです。

今の関係をどうにかしたい、でも嫌われたくない、と思っていました。

「どういうこと? madaoは、私とセフレになりたいってこと?」

そして、案の定、聞き間違いをされてしまいました。

「ちがうよ、そんなこと一切言ってないし、考えていない。海老子は、俺のことセフレだと思っているのかな、って」

「どういうこと?」

「ほら、前に海老子が事務的だ、って言ってたじゃん」

「うん」

「だから、何でなのかな、って。それで、あの、目黒の花見の会話を思い出して、それで、ああ、海老子は、俺とセフレみたいな軽い関係だと思っているから、そういう風に事務的なのかな、って」

「・・・その時はそう言ったかもしれないけど、でも、今は、そういう風に思っていないよ」

「そっか・・・」

「ごめん、先に髪を乾かさせて」

「うん、ごめん」


鍋が煮立ったようなので、ほうれん草とモロヘイヤと豚肉をザルに取りました。

それを皿に載せ、テーブルまで持って行きました。

白米を二膳よそい、それもテーブルまで持って行くと、ドライヤーが終わった海老子がやって来て、ほうれん草とモロヘイヤと豚肉を一緒に食べ始めました。


超まずかったです。

ほうれん草は茹でられ方が適当で、モロヘイヤは、葉っぱの味がわけわからないほどまずく、また、茎には芯が残っていました。

いや、そもそも茎は煮るべきではなかったのでしょう。めちゃくちゃ堅かったです。

豚肉がそれなりに食べれたのだけが救いでした。

白米も、新潟県コシヒカリだったのも助かりました。

ですが、総合的に、ものすごくまずい夕飯でした。


「おいしい」と海老子は言いました。

感動したのでもなく、棒読みでもなく、苦しそうに、そう言っていました。


僕はここで、別れ話を切り出そうかな、と思いました。

それほどまでに、心はイライラしていました。

あまりのイライラで全く会話ができず、黙りこくってしまいました。

ですが、このイライラが、海老子に向けたものなのか、それともほうれん草とモロヘイヤに向けたものなのか、よくわからなくなりました。

よって、一晩寝かすことにしました。


月曜日の朝になりました。

僕はいつも通り6時に起き、海老子はぐっすりと寝ていました。

そして、僕は、一晩たっても、イライラしていました。


あの、アホみたいにまずかった、ほうれん草とモロヘイヤ。

うまく混ぜられておらず、かたいところがあったり、やわらかいところがあったり。

老子は、苦しそうに「おいしい」って言った。

それを聞いて、俺はイラッとした。

でも、なんと言って欲しかったのだろう。

何を言われていたら、嬉しかったのだろう。

・・・。

「筋トレで疲れているのに、料理させちゃってゴメン」かな。

「作ってくれてありがとう、次は私が作るね」かな。

・・・。

老子がそういうことを言わないのは、きっと、海老子にとって俺が海老子の両親みたいな存在になっているからじゃないだろうか。

料理、洗濯、掃除、全部やってくれる。

老子のためにやるのが、人生の喜び。

老子は、好きなことをしてたら良い。

言われたことだけをやっていれば良い。


きっと、そうなんだろうな。

そうすれば、つじつまが合う。

僕の心が、今、海老子から離れているのも納得がいく。

僕は、海老子の両親のように、海老子を愛していないのだ。

愛し方が、全然違うのだ。

愛し方が違うから、海老子をずっと自由にさせることはできない。

思いやりがほしい。

自発的な行動がほしい。

悩みを聞いて欲しい。

愛されている、って感じたい。

一方向じゃなく、双方向が良い。

だから、いけないんだ。

だから、僕じゃあダメなんだ。

だから、僕は、海老子にふさわしくないんだ。


僕は、海老子を優しく起こしました。

「おはよう」

「おはよう」

眠そうにしている海老子は可愛かったですが、それもなんだか悲しかったです。

別れを言うのを、よりツラくさせるからです。

「海老子、さ、俺と一緒にいて、どう? 俺のこと、好きになった?」

「あはは。楽だよ、私」

「え?」

「madaoと一緒にいて、楽だよ」

ああ、やっぱり、彼女にとって僕は親なんだな、と思いました。

自分のことが好きな相手。

なんでもしてくれる相手。

老子は、言われたことだけをして、あとは好きなことをしていれば良い。

老子は、楽だから、俺と一緒にいる。

好きだから、ではない。

楽じゃなくなったら、僕が少しでも厳しくなったら、きっとまた世界一周にでも、ワーキングホリデーにでも行ってしまうのだろう。

「海老子は・・・」

僕は、涙が出かけました。

ああ、ついに言うんだな、と思いました。

「海老子は、俺がいない方が、楽しいと思う」

「ん?」

「俺は、海老子の親のように海老子を愛していなくて、だから、思う存分自由にさせてあげられなくて、だから、海老子は、俺のせいで、人生を楽しめていない」

「・・・」

「俺が海老子を自由にさせられていないことを、海老子の両親は残念に思っているし、玉子もすごい怒っている」

「・・・」

「フライトの変更を言われなかった時とか、韓国に1週間旅行に行ってくるって言われた時とか、そういう時にイラってしたり、悲しくなったりする俺は、海老子にふさわしくない、と思う」

「・・・」

僕は、真面目な表情をして、海老子の目をしっかり見て、言葉を必死に選びながら話しました。

すると、海老子は泣き始めました。

初めて見る、海老子の涙でした。

僕は、かなり驚きました。


待って、なんで泣くの?

君は、俺のことを好きじゃなかったじゃないか。

楽だから、一緒にいたんでしょ?

都合が良かったから、一緒にいたんでしょ?

言われたことさえしていれば、食事も全部自動だったから、一緒にいたんでしょ?


「これ、別れ話だよね」と海老子が涙まじりに言いました。「madao、私のこと、もう好きじゃないんだよね」

え?

どうしてそういう解釈になるのか、よくわかりませんでした。

今僕が言ったことが、一切伝わっていないようでした。

全部省略して、「別れたい」だけ伝わったようでした。

そして、そんな口下手な自分を呪いました。

「ごめん、海老子

僕が、この悲しい気持ちを、うまく伝えてこれなかったことが、悔しくなりました。

別れたくなるまで、向き合えなかったことに、申し訳なくなりました。

「海老子、ごめん、今までこのことを言えなくて、ごめん」


それから、僕と海老子は向き合って、二人で泣きました。

老子に悲しい思いをさせてしまったことが、今までの何よりも、僕を悲しくさせました。

涙が頬をつたい、鼻水がアゴまで届き、ひたすら醜い顔になりました。

でも、そんなの、関係ありませんでした。

僕と海老子に、目に見えない繋がりがあったことに気付いたからです。

二人の身体が密着していなくても、僕たちは繋がっていたことに、ここで気付いたからです。


「1週間後、また会おう」と僕は言いました。

この朝の会話で、僕たちの関係を一切合切ぶつ切りにするのは、違う気がしました。

「1週間後にまた会って、ゆっくり話そう」

こくり、と海老子が頷きました。


時計を見ると、仕事に遅刻するかしないか、ギリギリの時間でした。

僕は急いで涙を拭き、鼻をかんで、スーツに着替えてから玄関を出ました。

「連絡するね」と言いました。

「うん、気をつけて」と海老子が言いました。


ああ、ツラいな、と思いました。