madajimaとの会話

たまたまここを訪れてくれた方を一笑い吹かせるために、赤の他人との「どうでもいい会話」や自分の「どうでもいい思考」を載せています。

スタバに現れた謎のおぼっちゃま その4

その1はこちら

その2その3

あらすじ↓

金正恩似のフィリピン人の国連職員であるおぼっちゃまに、インターネットを繋げてあげたmadajima。

彼が浅草で撮った写真を色々見せて来て、 可愛くてたまらない。

だが、ママチャリに跨っているだけでドヤ顔している写真を見せられたとき、バカにしたくてたまらなくなった。

金正恩みたいだね」って言いたくなった。

でも、それを言ったら、ロケットを落とされる気がして・・・。

  

「お? これからトランプ君に会いに行くのかな?」

僕はそう言いかけた。

だが、彼自身は自分のことを金正恩とは思っていないに違いなく、また、面白いかどうか分からなかったため、言うのをやめた。

 

「へえ、浅草で、自転車借りれるんだね」

「そうそう」

「これ、写真、撮ってもらったの?」

「うん、近くにいた人に」

「ふ〜ん」

 

ふう・・・乗り切ったぜ・・・。

調子に乗って、笑いを取りにいくところだったぜ・・・。

無難にいってよかった・・・。

危うく、国連が日本にロケットを落とすところだった。

緊張感、まじ半端ないわ。

国を一身に背負うって、こんな緊張するのか。

安倍首相って、よく首脳会談をあんなにこなせるな。

トランプともプーチンとも仲良いとか、心臓に毛が生えてんのかよ。

俺が首相だったら、日本はすでに焼け野原だわ。

 

が、それから、ツンツンが来なくなった。

僕の腕を、太い指で小突いてこない。

もしかして、無難な対応が気に入らなかったかな?

やっぱり、笑いを取りに行ったほうが良かったのかな?

そんな風に心配し始めた。

右腕が寂しいよー。

ツンツンしてよー。

 

すると、皆藤愛子似の店員さんがやって来た。

「こちら、メニューですが・・・」

そう言って、おぼっちゃまに近づいて行く。

僕は、ハッと気づいた。

そうだよー! お前、こんだけ長居して、何も買ってねえじゃん!

俺に右腕をツンツンする前に、まずコーヒーをゴクゴクしろよ!

店員さんは日本語で聞いて来たが、メニューの台紙を持って来たから、おぼっちゃまにも意図はわかったのだろう。

「いやいや、僕、Facebookに写真をアップロードしたいだけだから」と声を少し張り上げて、店員さんに言う。

「いやいや、こんだけ長居してんなら、コーヒーは買わないと」僕はそう嫌味を込めて言った。

「でも僕、もう朝に一杯コーヒー飲んで、もう飲めないから」

屁理屈かよ。

僕は、思わず笑ってしまう。

そういう問題じゃねーよ! とツッコミたいが、笑ってうまく言えない。

 

結局、おぼっちゃまが猛烈に拒絶したため、皆藤愛子は笑顔で引き下がった。

丁寧だけれども、勇敢だなあ、と店員さんに対する好感度はさらに上がる。

 

「まじで、これ以上長くいるなら、オーダーした方がいいよ」

僕は、少しシリアスなトーンでそう言った。

僕がおもてなしをしすぎることで、おぼっちゃまが長居し、店に迷惑がかかるのは避けたかった。

もちろんおぼっちゃまは、「んーー」と言うだけだった。

 

それから、3分ほどだろうか、沈黙が流れた。

自分のスマホで、テザリングで使用されているデータ容量を見ると、あっという間に60MBほどになった。

ちなみにこれは、僕の1日の平均使用料を超えている。

集中して、写真を全部アップロードしようとしているんだろうな、と想像した。

 

って言うか、そんなの、ホテルに戻ってからすればいいのにね。

今やる必要、絶対ないでしょ。

安否確認なら、メッセージで事足りるし。

 

いや、だめだ。

もはや、おぼっちゃまの世界のことを考えるのはやめにしよう。

掘れば掘るほど何かが出てくる。

きっと、僕の世界とは何もかもが違う世界に、彼は住んでいるに違いない。

だって、iPhoneの充電ケーブルの存在を知らないんだもの。

だって、何にも買わずに、スタバ店内に長居するんだもの。

だって、人の4Gを使って悠々と写真をアップロードするんだもの。

とてつもねえよ。

 

ツンツン。

来た・・・。

ついに来たよ、久々の右腕ツンツン・・・。

僕はフッと右側に顔を向けた。

「これ、どう思う?」

そう言って、写真を見せて来た。

それは、自転車の写真だった。

それは、先ほどと同じ、自転車に跨っている写真だった。

 

あっはっはっはっは。

あーはっはっはっは!

 

笑った。

日曜日の朝、静かなスターバックス

純粋に、声を出して、笑ってしまった。

 

その写真、さっき見たし。

そんなに何度も見たくなるほど、会心の写真でもないし。

ただ、金正恩が自転車に乗って、カメラ目線しているだけだし。

 

「ちょ、ちょっと待って、何でそんなに笑っているの?」

おぼっちゃまは、不可思議そうにしながらも、釣られて少し笑い、僕にそう言った。

「いや、めっちゃ、良いと思うわ、その写真、ほんと」

僕は、高笑いを抑えて、そう言った。

 

金正恩みたい、って言いてえ。

それ、めっちゃ言いてえ。

だけど、こんな笑いながら言ったら、最悪のタイミングである。

絶対言っちゃダメだ。

だが、そう思えば思うほど、言いたくなる。

 

一応、この時も、相手が国連の職員であることを僕は忘れていなかった。

何か、相手を傷つけない、気の利いたことを言わなきゃな。

笑いを抑えながら、必死に考えた。

「あれだね、金持ちセレブみたいだね」

「え?」

あーはっはっは!

 

だめだ。

もはや、なんでも面白い。

自分が口を開けた瞬間笑ってしまう。

笑いを全然抑えられない。

「今、なんて言ったの?」

おぼっちゃまが、シリアスな表情で聞いてくるのも面白いため、再び笑ってしまう。

「なんて言った? なんて?」

「金持ちセレブ。金持ちの有名人みたい!」

それを聞き取れた瞬間、おぼっちゃまはニンマリとした。

今日一番のご満悦な表情だった。

 

よかった。

金正恩みたい、って言わなくてよかった。

これこそがおもてなしだわ。

今日も日本は平和である。

スターバックスは、ちょっとカオスだけど。

普通の日本人と、フィリピンの金正恩が笑っているけど。

 

そして、ついに、おぼっちゃまが席を立った。

僕があまりの大声で笑うので、少し居づらくなったのだろう。

『なにこの日本人、なんで僕が自転車に跨っている写真で、そんな笑ってんの』

そんな風に思ったのだろう。

 

「インターネット繋げてくれてありがとー。じゃあね」

おぼっちゃまは、重い腰を上げながらそう言った。

だが、その声には軽さしかない。

とても感謝しているようには聞こえず、儀礼的なようにも聞こえた。

まるで、金正恩が召使いに挨拶をするようだった。

 

「いえいえ。東京を楽しんでね。じゃあ」

そんなことを気にせず、僕が、彼の背中をポン、と叩いた。

叩いた手の平には、分厚い壁のような脂肪を感じた。

これが、国連を背負っていく男の背中か、と感慨深くなった。

 

 

ついに、嵐は過ぎ去った。

笑いの嵐が、ついに終わった。

今起きた出来事はブログにするしかないな、いや、これをブログにしないなら何をするのか、と思い、集中し、会話を丸ごとメモをとった。

そうして、30分後ほどして、僕も席を立った。

 

すると、たまたま、皆藤愛子似の店員と、通路ですれ違った。

彼女は、僕の目を見て「ありがとうございました」と頭を下げた。

その笑顔には、いろんな意味が込められている気がした。

いつもの、儀礼的な挨拶にはとても聞こえなかった。

恥ずかしいので、僕は軽く会釈だけした。

 

ここは良いスタバだな。

おもしろいお客と、丁寧な皆藤愛子似の店員さんがいる。

また来週の日曜日も来たいな、と思った。